第1605話 地天を討て(1)
「っ、影人・・・・・・無事でよかったわ」
影人が急いで家の方に向かうと、異変を感じたからか外に出ていたシェルディアがそう声を掛けてきた。外に出ていたのはシェルディアだけでなく、フェリート、ゼノ、キトナもいた。
「帰城影人。あの空に浮かんでいるモノは・・・・」
フェリートはその顔を緊張させながら、空に浮かぶモノ――シトュウ曰く、かつてこの世界に災厄をもたらした4つの災厄の1つ、『地天』のエリレ――を見つめていた。独白するようなフェリートの言葉に、影人は早口で事情を説明した。
「ヤバい奴らしい。シトュウさんによると、次元の要所であるこの地に封印されてたらしいんだが・・・・・・ここの次元の境界が不安定になった事によって、あいつの封印も解けたみたいだ」
「「っ・・・・・・」」
影人の言葉にシェルディアとフェリートが驚いた顔を浮かべる。2人とも、影人の言葉の隠された意味に気づいたのだ。
「・・・・・・それって、フェルフィズの奴がここに来た。もしくは、まだいるって事だよね?」
2人のように顔色こそあまり変えなかったが同じようにその意味に気づいたゼノは、そう言葉を放った。
「ああ、そういう事だ。あいつが俺たちに気づかれずにどうやってここの境界を不安定にさせたのかは気になるが・・・・・・今はそれよりも、封印から解かれたあいつの事だ。何でも、災厄って呼ばれて封印されてた奴みたいだからな。ロクなモノじゃねえはずだ。シトュウさんによると、あいつの名前は『地天』のエリレって名前らしいが、嬢ちゃん知ってるか?」
「『地天』のエリレ・・・・・・いえ、知らないわね。少なくとも、私がいた時はそんな名前聞いた事もなかったわ」
影人の問いかけにシェルディアがかぶりを振る。すると、今まで訳が分からなかったためからか、ずっと黙っていたキトナがおずおずといった様子で口を開いた。
「あの、皆さんが先ほどから何を仰っているのかは分かりませんが・・・・・・『地天』のエリレという名前は聞いた事があります」
「っ、本当か?」
「はい。『地天』のエリレとは古い話に出てくる悪者の名前です。今から約1000年の昔、この世界を4つの災厄が襲った。即ち、火、水、風、地。火の災厄は世界を焼き、水の災厄は世界を沈め、風の災厄は世界を吹き荒らし、地の災厄は世界を砕く・・・・・・その地の災厄の名前が『地天』のエリレです。と言っても、城の書物庫にあった何百年か前の古文書に書いてあっただけの名前ですが・・・・・・」
キトナが戸惑ったような顔を浮かべながらも、影人にそう説明してくれた。
「そうか・・・・・・ありがとなキトナさん。多分、そいつで間違いない。やっぱり、相当にヤバい奴らしいなあいつは・・・・・・」
影人は前髪の下の目で空中に浮かぶエリレを見つめた。今はまだ覚醒した直後だからか特にアクションを起こしてはいない。しかし、エリレがいつどのような行動を起こすかは分からない。
(ここの人達には世話になった。加えて、この事態を招いたのがフェルフィズのクソ野郎が原因なら・・・・・・俺らがあいつをどうにかしなくちゃな)
恩返しのためにも。そして、フェルフィズによってメザミアの人達の日常が壊される事はあってはならない。そんな不条理は許されない。ならば、フェルフィズと同じ世界から来た自分たちが、責任を持ってその不条理を打ち砕くしかない。




