第1601話 一時のスローライフ、蘇る災厄(1)
「じゃ、俺ちょっと畑手伝ってくるから。何かあったら呼んで」
昼過ぎ。ゼノはそう言って家を出て行った。影人たちがメザミアに滞在し始めて4日が経過した。影人たちはこの田舎町に馴染み始め、ゼノは2日前くらいから住人達の畑仕事を手伝うようになっていた。
「・・・・・・あいつ、なんか楽しそうだな。まあ、土いじりが好きって言ってたから、畑手伝えて嬉しいって感じか」
窓際のイス(シェルディアが影から出した物)に座って日向ぼっこをしていた影人がポツリとそんな言葉を漏らす。そんな影人に、リビングのテーブルに座って紅茶を飲んでいたシェルディアは、こんな事を言ってきた。ちなみに例の如く紅茶もシェルディアが影から出した物だった。
「そうだと思うわ。あの子、昔から命を育てる作業は好きだったから」
「全てを破壊出来る力があるのにか。皮肉だな」
「だからこそでしょうね。壊す事しか出来ない自分が命を育てる・・・・・・人とは、自己とは反対にあるものに惹かれやすい生き物でしょう。闇人といえど、そこは同じよ」
「・・・・・・そうだな。確かにそうだ。さすがは嬢ちゃん。人生の大先輩だな」
「あら、それは暗に年寄りと言われているのかしら?」
シェルディアが笑みを浮かべそう言ってくる。顔は笑っていたが、目は全く笑っていない。マズい。地雷を踏んだと思った影人は慌てたように話題を変えた。
「そ、そんなわけないだろ。そうだ、俺ちょっと王女サマの様子見てくるよ。確か遺跡に行くって言ってたよな。ま、また後でな」
靴を履いたままだったので、影人は窓から家を出た。フェリートは町の人気者になり町で色々と仕事や雑用を手伝っているので家にはいない。キトナは今言ったように遺跡に行っていた。
「あ・・・・・・もう。相変わらず、こういう時はすぐ逃げるんだから」
窓から外に出て行った影人にシェルディアは呆れたように息を吐く。だが、シェルディアはすぐに口角を上げた。
「・・・・・・穏やかね。うん、いい日々だわ」
そして、1人になったシェルディアはポツリとそう呟いた。
「ふぅ、危ねえ。もう少しで怒られるとこだったぜ。怒った嬢ちゃんは怖いからな・・・・・・」
家を出た影人はホッと息を吐きながら、遺跡に向かっていた。遺跡に行くといったのはほとんど方便だが、言ってしまったものは仕方がない。遺跡はメザミアに来た翌日に行ったが、家から大体15分くらいなので距離はそれ程ではない。
(しかし、穏やかな日々だぜ。そりゃ、すぐにフェルフィズの奴がここに来たり、他の要所で行動を起こすとは思ってなかったが・・・・・・)
最初に到着した日を入れて、メザミアでの生活はまだ4日しか経過していない。だがその数日の間で、影人はメザミアでの生活にそんな感想を抱くようになっていた。日が昇れば起き、日が沈めば寝る。食材はフェリートやゼノが手伝いの報酬として貰いフェリートがそれを調理し、食事となる。水は近くの井戸や川で調達。完全なる自給自足ではないが、それに近い田舎暮らしを影人たちは送っていた。
「スローライフってやつかね、これは。レイゼロールと一緒に暮らしてた時は、どっちかって言うとサバイバルだったしな・・・・・・」
自然が多いと、どうしてもレイゼロールと過ごした日々を思い出してしまう。本当にあの時は色々と苦労した。まあ元来、生きるという事は苦労するという事を学べもしたし、苦労以外の思い出もあるにはあるが。影人はレイゼロールと暮らした日々を思い出しながらそんな事を思った。




