第1599話 メザミアと王女(4)
「・・・・・・すっかり夜か。早いもんだな」
窓を開けて外を見つめていた影人がそう呟く。窓の外は、周囲が田園のために暗闇が支配している。ただ、離れた所にある家々の方にはポツリと明かりが見える。キリエリゼしか例には出せないが、こちらの世界に電気、またはその技術はないと思うので、あの明かりが何の光かは分からない。ヘレナとハルの家は、魔法光という魔法の明かりで夜の家の中を照らしていたが、とにかくとして影人には分からなかった。
ちなみに、影人たちの家の中は電気タイプのランタンの明かりが照らしている。シェルディアが影の中に収納していたものだ。代わりの電池やランタンもまだまだあるとの事なので、存分に使っている。やはり、シェルディアはドラ◯もんだと影人は思った。
「わあー、綺麗な光。魔光筒と同じような形状ですが、中の光は違う感じですね。不思議ですわ」
キトナはランタンに興味津々といった様子で椅子に座りながら、テーブルの上のジッとランタンを見つめていた。相変わらず響斬と同じ糸目なので分かりにくいが、目をキラキラとさせている感じだ。
「では私たちは町の歓迎会に行ってきますが・・・・・・あなた達は本当に行かなくていいんですね?」
シェルディアの出した鏡で自分の格好を整えていたフェリートが影人とキトナにそう確認を取ってくる。実はフェリートのコミュ力により、影人たちの事をいたく気に入った町長がささやかな歓迎会を開いてくれる事になったのだ。どれくらいメザミアに滞在するか分からない以上、地元住民たちと親睦を深めておいて損はない。ゆえに、フェリートはその申し出を受け、ゼノとシェルディアも面白そうだからと出席する事になっていた。
「ああ、俺は嬢ちゃんが影から出してくれたパンと缶詰で十分腹が膨れたしな。それに、ちょっと天体観測もしたいし。悪いがパスだ」
「私も少し疲れてしまいましたので、すみません」
「分かりました。では、私たちだけで行ってきますよ。帰城影人、滅多な事はないと思いますが、留守は任せます」
「あいよ」
フェリートの言葉に影人が軽く手を振る。シェルディアは「じゃあ行ってくるわね」と手を振り、ゼノは「じゃ」と言って、フェリートと一緒に家を出て行った。家に残されたのは、影人とキトナだけとなった。
(本当、星が綺麗だな。俺たちの世界とは星の配列とか大きさとかは違うんだろうが、星の美しさだけは変わらない)
窓から息を呑むような星空を見上げながら、影人は静かに感動していた。これほどに星空が美しいと思ったのは、過去の世界でレイゼロールと一緒に暮らしていた時以来だ。
(さて、ちょうど2人になれたしそろそろやるか)
影人は視線を星空から外し室内のキトナに向けた。昼過ぎに感じた違和感の正体。影人はそれが何なのか分かったのだ。
「なあ、王女サマ」
「はい? 何でしょうか影人さん」
ランタンから目を離しキトナが影人の方に顔を向けてくる。影人は突然何の脈絡もなく、
「あんた・・・・・・その性格演じてるだろ」
そう言った。




