第1598話 メザミアと王女(3)
「ここに滞在するなら、居心地をよくしないとね。フェリート、影の中から色々家具とかを出すから設置するのを手伝いなさい」
「別に私はシェルディア様の執事ではないのですが・・・・・・はあー、分かりました」
シェルディアとフェリートが立ち上がる。どうやら、2人は家の内装を整えるようだ。
「俺はあの王女サマでも呼びに行くか。お前はどうするゼノ?」
「んー、俺も散歩したいし君に着いて行こうかな」
「あいよ。じゃ、俺たちは外に出てくるぜ」
シェルディアとフェリートにそう言って、影人とゼノは外に出た。この家は畑が広がっているエリアの方にあるので、周囲には田園風景が広がっている。畑には何人かメザミアの住人たちの姿が見えた。
「パッと見た限り、この辺に王女サマの姿は見えねえな。街の方に行ったか?」
「そうじゃない? あのお姫様子供っぽいから、町の子供たちと遊んでるんじゃないかな」
畦道を歩きながら影人とゼノがそんな言葉を交わす。ゼノはその琥珀色の目をずっと畑の方に向けていた。
「何だ畑が気になるのか?」
「うん。俺、土いじりは好きだから。異世界の土とか畑ってどんな感じかなって思って」
「へえ・・・・・・意外だな。だったら、お前はこの辺りにいるか? 俺は町の方に行ってくるし」
「いいの? だったらそうしようかな」
ゼノは立ち止まり畑を眺め始めた。影人はゼノを放って町の方に向かった。
「あはは、遅いぞキトナー!」
「こっちこっち!」
「うふふ、待ってくださーい!」
影人が町の方に到着すると、子供たちとキトナが追いかけっこをしていた。どうやら、ゼノの予想は当たっていたようだ。すっかり子供たちに馴染んでいるキトナに、影人は呆れたように軽く息を吐く。
「はあー、元気な事で・・・・・・感情面がマジで子供だな・・・・・・」
あれがこの国の王女だとは到底信じられない。メザミアの人々はキトナが王女とは気づいていないので、影人たちも説明はしていない。そのため、キトナは吸血鬼たちと旅をする獣人としか認識されていなかった。
「おーい、キトナさん。そろそろ戻るぜ」
子供たちの手前だったので、王女とは呼ばずに影人はキトナにそう声を掛けた。
「あ、影人さん。すみません、散歩をしていたら子供たちと遭遇してそのまま遊んでいました。分かりました。今戻りますね」
影人に気がついたキトナは少しバツが悪そうな顔でそう言ってきた。キトナの言葉を聞いた子供たちは不満そうな顔を浮かべた。
「えー、キトナもう帰っちゃうのかよ。つまんねえー」
「まだまだ遊びたいよー」
「ごめんなさい。また明日に遊びましょう」
「っ・・・・・・?」
子供たちとキトナのやり取りを見ていた影人は軽い違和感を覚えた。だが、その違和感の正体を考える前にキトナが影人の方へとやって来た。
「お待たせしました影人さん。では、行きましょうか」
「あ、ああ」
キトナにそう言われた影人は頷き、キトナを伴って自分たちの滞在先の家に向かって歩き始めた。
(さっきの違和感は結局何だったんだ・・・・・・?)
その心に疑問を抱きながら。




