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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1597/2051

第1597話 メザミアと王女(2)

「まあ、立派なダジンコ。そのダジンコ、私がお持ちいたしますわ。抱っこしてみたいんです」

「抱っこですか・・・・・・まあ、いいでしょう。では、お願いします」

 両手を差し出して来たキトナに、フェリートは野菜を手渡した。先ほど、城で思い通りにならなければ泣き喚くキトナの姿を見たフェリートは、渡さなければ面倒になると思ったのだった。

「ありがとうございます。まあ可愛い! よちよち、いい子でちゅね〜」

 フェリートから野菜を受け取ったキトナは機嫌が良さそうにそんな言葉を呟く。キトナの様子を見ていた中年の獣人族男性は「はあー、変わった姉ちゃんだな」と不思議そうな顔を浮かべた。 

「さて、では行きますよ。この方が町長さんの家まで案内してくれるそうですから」

 フェリートが音頭を取るように一同にそう言った。そして、影人たちは男性の案内の元、歩き始めた。













「・・・・・・お前凄えな。まさか、寝床まで確保出来るとは思ってなかったぞ」

 影人たちがメザミアに到着して数十分後。影人たちは町外れの家の中にいた。影人にそう言われたフェリートは、窓を開けながらこう言葉を返した。

「先程も言ったでしょう。交渉術は執事の基本です。それに加えて事情もよかった。たまたまこの町に空き家があり、町長もいい人だった。結局は運がよかった。そういう事です」

「いや、それでもだろ・・・・・・」

 影人が軽く呆れたようにそう言葉を漏らす。今の会話通り、メザミアの町長と会ったフェリートはその尋常ならざるコミニュケーション能力を存分に発揮し、メザミアの滞在中この空き家を好きに使ってもよいという許可を得たのだ。この世界で使える金がないので、正直今度こそ野宿を覚悟していた影人だったが、それはまた回避された。

「うん。埃は溜まっているけど、掃除をすれば全然使えるわね」

「また屋根があるところで寝られるなんてラッキーだなー」

「まあ、小さなお家。でも素敵です! うふふ、ワクワクが止まりませんわ!」

 シェルディア、ゼノ、キトナも家の中を見回りそんな感想を漏らす。空き家は広い平屋で、町長の話だと2年ほど放置されていたようだが、それでも影人たちからすれば使えるだけラッキーというものだ。

「さて、メザミアに着いたわけだが・・・・・・フェルフィズの奴はまだ来てないみたいだし、しばらくはここに滞在する・・・・・・って事になる感じか」

 家の中を掃除した影人たちは(主にフェリートが闇の力を使って掃除用具を創造し凄まじいスピードで掃除したが)、一息つくように、元々この家に残されていた4人掛けの簡素な木のテーブルに着いていた。イスも持ち運ぶのに不便なためか、そのまま残されていた。

 ちなみに、テーブルに着いているのは影人、シェルディア、フェリート、ゼノの4人で、キトナは外だ。話をするからとキトナには少しの間散歩に行かせた。キトナは喜んで外に出て行った。

「そうね。まだここの軛が壊され、もしくは不安定になっていなければだけど。その辺りは分かるようになってるの影人?」

「ああ。シトュウさんにこの世界の次元の要所に異変があった時は念話で教えてもらうように言ってある。今のところその報告はないよ」

 隣に座っているシェルディアの質問に影人が首を縦に振る。すると、次はフェリートが口を開いた。

「・・・・・・まあ、今は見の姿勢しか私たちには取れないでしょう。他の次元の要所に異変があれば、フェルフィズの目的も確定し、私たちはここで待ち伏せる事が出来る。壊されてマズイのは5箇所ですから、1箇所くらいなら必要経費と受け止められます」

「まあそうだね。取り敢えず、君が言ったみたいにしばらくの間はここに滞在でもいいんじゃないかな。焦って行動しても別にいい事ないしね」

 フェリートの意見にゼノも同意する。2人の意見は現実的だった。

「やっぱそれが安牌だよな・・・・・・しゃあねえ、じゃあしばらくはここに滞在するって事でいいか?」

「ええ」

「はい」

「うん」

 確認を取った影人にシェルディア、フェリート、ゼノの3人が頷く。こうして、影人たちはしばらくの間メザミアに滞在する事が決まった。

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