第1596話 メザミアと王女(1)
「ここがメザミアか・・・・・・」
メザミアに辿り着いた影人はポツリとそう呟いた。目の前に広がっているのは、のどかな田舎町の風景だ。影人から見て左側には畑が広がっており、右側には質素な石造りの家々が見える。そして、奥には古びた遺跡があった。影人の勝手なイメージになるが、西洋の田舎という言葉がピッタリに思える。
「まあ、何て素敵な光景でしょう! 自然がいっぱいで気持ちいいです!」
影人と同じようにメザミアの風景を見たキトナは、興奮した様子だった。相変わらず、子供のような様子だ。
「ええ、素敵だわ。気持ちがのんびりとしてくるわね」
「確かに、どこか懐かしい光景ですね。ですが、私たちは休暇に来たのでも観光に来たのでもありません。その事は、忘れないように」
「分かっているわよ。じゃあ、早速町の方に行ってみましょうか」
フェリートの小言に軽く頷いたシェルディアが街の方へと歩いて行く。影人、ゼノ、フェリート、そしてキトナもシェルディアの後へと続いた。
「そう言えば、皆さんは何をしにメザミアに来られたのですか? 先ほど、休暇でも観光でもないと仰っていましたが」
歩きながらキトナが軽く首を傾げ、そんな質問をしてくる。案外に耳ざとい。そう思いながら、影人はこう言葉を返した。
「・・・・・・別にあんたには関係ないだろ。そういうあんたこそ、どうしてここに来たかったんだよ?」
一応、この国の王を脅した一味の1人なので、少しぶっきらぼうな口調を影人は選択した。影人にそう言われたキトナは笑顔を浮かべこう答えた。
「私、ずっと遺跡という所に行ってみたかったんです。秘密基地みたいで楽しそうと思って。それで、メザミアには遺跡があると前に本で読んだ事があったので、私もここに来たいなと」
「・・・・・・ふーん。そうかよ」
キトナの答えを聞いた影人は自分から聞いたのに、あまり興味もなさそうに相槌を打った。恐らくだが、嘘はついていないだろう。そして、そうこうしている内に影人たちはメザミアへと到着した。
「町・・・・・・って言うよりかは村って感じだな」
「だね。住人の服装も質素だし、何か昔にタイムスリップしたような気分だ」
影人の呟きにゼノが同意を示す。往来にはメザミアの住人たちがおり日常を過ごしていた。大人たちは話をしたり買い物をしたり、子供たちは遊んだり走り回ったりと。
「ん? 何だあんたら? 見ねえ顔だな。それにそこの姉ちゃん除いて頭に耳もねえし・・・・いったい何者だ?」
影人たちがメザミアの入り口にいると、鍬のような物を持った中年の男性がそう言葉をかけて来た。男性の言葉からは、隠しきれない不審感が滲み出ていた。
「こんにちは。実は私たち旅中の吸血鬼でして」
「吸血鬼? それってあれか。血吸うっていう・・・・・・」
「確かに、吸血鬼はそういう生物ですが、皆さんの血を吸うような事はしません。ご安心ください」
フェリートがニコリと完璧な執事スマイルを浮かべる。それから、男性と少しの間言葉を交わしたフェリートは影人たちにこう言った。
「取り敢えず、この町の町長的な人に会わせてもらえるようになりました。後はその人に事情を話しましょう。ついでに、先程収穫出来たらしい野菜を頂きました。大根に似ていますが、こちらの世界ではダジンコと言うそうです」
「いや、打ち解けるの早すぎだろ。お前、どんだけコミュ力高いんだよ・・・・・・」
ダジンコなる野菜を見せて来たフェリートに、影人は引いたような顔になる。そんな影人に、フェリートは「交渉術は執事の基本ですからね」と当然のような顔を浮かべた。




