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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1595/2051

第1595話 まさかの同伴者(3)

「っ!? キトナ・・・・・・」

「キ、キトナ王女様! お戻りください! 今は有事でございます!」

 その女性の登場にギルメリドは驚き、御付きの者だろうか、メガネをかけた女性が部屋の外から慌てたようにそんな言葉をかけた。

「っ、王女・・・・・・?」

 キトナと呼ばれた女性の敬称を聞いた影人がそう反応する。キトナは玉座の間にいる影人たちを見ると、軽く驚いた様子になった。

「まあ、お客様が御出でしたか。こんにちは皆様。私、ゼオリアル王国君主、ギルメリド・ヴェイザが娘、第1王女のキトナ・ヴェイザと申します。歳は24です。以後、お見知りおきを」

 キトナはおっとりとドレスの裾を軽く摘んで、影人たちにお辞儀をしてきた。

「っ、キトナ、そのだな・・・・・・今は大事な話の最中だから部屋に戻っていなさい。後、クリマナ。国内の地図を持ってきてくれ。悪いが、メザミアに印をつけておいてくれ」

「か、かしこまりました」

 クリマナと呼ばれた御付きの者はすぐにどこかへと消えていった。だが、キトナはすぐには出ていかず影人に声を掛けてきた。

「まあ、とても長い前髪ですね。髪で顔の上半分が隠れてしまっています。こんなに前髪の長い方を見たのは初めてです」

「あ、ああ・・・・・・そうか・・・・・・」

 場違いともいえる雰囲気を纏うキトナに、影人はそう言葉を返す事しか出来なかった。そんなキトナを、シェルディアたちは不思議そうに見つめていた。

「・・・・・・すまん。キトナはその・・・・・・生まれつきそうなのだ。その性格のせいで、状況をよく理解していない事がある。何をするでもなく、そこに考えがあっての事ではないゆえ・・・・・・見逃せ」

 ギルメリドが軽くどうしたものかと右手で軽く頭を押さえながらそんな言葉を述べた。その言葉を聞いた影人は、感情面に何か欠陥があるのか、もしくは何らかの病気か障害をキトナは抱えているのかと予想した。

「別に何もしないわよ。地図さえもらえれば、何も害は与えないから」

 シェルディアはまるで何も気にしていないといった様子でそう言った。それから、少し時間が経過してクリマナが地図を持って来た。

「ど、どうぞ」

「ありがとう。なるほど、ここがメザミアね。ここからだと、大体どれくらい掛かるのかしら?」

「・・・・・・徒歩で行くのなら約3日ほどだ」

 クリマナから地図を受け取ったシェルディアに、ギルメリドはそう答えた。必要な事を全て聞けたシェルディアは満足そうに頷いた。

「分かったわ。色々迷惑をかけたわね。じゃあ、私たちはこれで失礼するわ。ああ、別に追ってきたりしてもいいけど、あまりお勧めはしないわ。行きましょう、あなた達」

「くっ・・・・・・」

 シェルディアに軽く釘を刺されたギルメリドの顔が苦々しくなる。シェルディアはギルメリドに背を向けた。影人たちもギルメリドに背を向け、城から出ようとする。

「皆さま、メザミアに行かれるのですか? でしたら、()()()()()()()()よろしいでしょうか? 前々からメザミアには行きたいと思っていましたので」

 だが、キトナは影人たちに突然そんな事を言ってきた。

「・・・・・・・・・・・・は?」

 その言葉を聞いた影人は素っ頓狂な声を漏らした。














「まあ、これは凄いですわね! 私いま空を飛んでいますわ! しかも不思議な乗り物で! 凄い凄い!」

 数十分後。城を出た影人たちは、馬車で空を飛んでメザミアに向かっていた。そして、その客車の窓から外を見つめていたキトナは、まるで子供のようにはしゃいでいた。その服装は城にいた時のドレス姿ではなく、簡素な服に白いマントを纏った旅装束であった。

「・・・・・・なあ、どうしてこうなったんだ?」

 そんなキトナを少し離れた所から見つめていた通常形態の影人がポツリとそう呟く。ちなみに、影人が通常形態である事からも分かる通り、今回空飛ぶ馬車(こちらもキャラバンタイプ)を創ったのはフェリートだ。フェリートはゼノに封印を壊してもらい、闇人としての力を解放した。フェリートは擬似的生命の『偽造』と物質の『創造』に、『浮遊』は疲れると不満を漏らしていたが、一応異世界人といっても、第3者にスプリガンの事を知られたくない影人は無理やりにフェリートに移動を押し付けた。

 そして、これもちなみにではあるが、前まで『偽造』の力を使えなかったフェリートだったが、「執事は日々進歩する者」という理由で、いつの間にか闇の性質の拡大に成功していた。執事とは不思議な生物である。

「さあ? でも、一言でいえば成り行きでしょ。あのキトナって子が俺たちに着いて行きたいって言って、シェルディアがそれを了承した。それだけでしょ」

 影人の隣に座っていたゼノはあまり興味もなさそうに軽く頬杖をついていた。どうやら、ゼノはこの状況をあまり気にしていないらしい。

「だって面白いじゃない。一国のお姫様が一緒に出かけたいなんて。それに、泣き喚いて可哀想だったし。まあ大丈夫よ。約束通り、メザミアに着いてしばらくしたら、王都に帰すから。1度行った場所は転移出来るし」

 2人の会話を聞いていたシェルディアがそう言葉を述べる。あの後、当然の事ながらギルメリドがキトナを止めた。だが、キトナはおよそ成人女性とは思えぬ様子で泣き喚いた。まるで、赤子が癇癪を起こすように。キトナに泣き喚かれたギルメリドは最後まで葛藤していたが、シェルディアに「危害は絶対に加えないと約束するわ。そして、ちゃんと帰してあげる」という言葉を聞いて、最終的にはその首を縦に振った。キトナが旅装束を纏っているのは、そういう理由からだった。

(普通なら自分を脅した奴らに大事な娘、しかも王女を預けるなんて絶対にしない。信頼もクソもないからな。だけど、あの様子だと、あの王様はこの王女にずっと苦労してきた感じだった。ここからは嫌な予想にはなっちまうが・・・・・・お荷物王女をちょうどいい機会に手放せたみたいな感じなのかね)

 影人はそう邪推した。そうでなければ、色々と説明がつかないからだ。まあ、家族の仲の良し悪しや事情はそれぞれ違う。それは異世界でも変わらないだろう。

(警備隊に囲まれてそれを蹴散らしてお尋ね者。で、国王脅して地図ゲットしたらなぜか王女サマが同伴者に・・・・・・ダメだ。意味が分からねえ。展開の速さが終わってやがる)

 王都に着いてから今に至るまでを振り返っていた影人は内心で疲れたようにそう呟いた。RPGならヤケクソ展開と叩かれるような展開だ。だがしかし、事実は小説よりも奇なり。これは現実である。先行きが全く予測できない影人は、思わずこう呟いた。

「・・・・・・ったく、これからどうなるのかね・・・・・・」

 そして、それからしばらくして、影人たちはメザミアへと辿り着いたのだった。

 ――脅した国王の王女を同伴者として。

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