第1594話 まさかの同伴者(2)
「・・・・・・メザミアへの行き方だと?」
約10分後。影人たちは城の中、その玉座の間にいた。突然侵入し、そう聞いて来たシェルディアに対し、獅子のような耳を生やした精悍な顔の中年くらいの男性――獣人族国家の君主、ギルメリド・ヴェイザは厳しい目を向けた。君主に相応しく、威厳ある口髭に筋骨隆々とした体。ギルメリドは君主とはかくあるべしといった感じの容貌であった。
「ええ、それを教えてほしいの。それか、この国内の地図を頂けるかしら? 出来れば、メザミアに印をつけておいてほしいわね」
城を守っていた者たち、城の中にいた警備兵たちをお尋ね者らしく軽く蹴散らしながらここへと至ったシェルディアは、ニコリと笑みを浮かべた。
「・・・・・・貴様らのような礼も知らぬ者どもの頼みを、この俺が受け入れると思うか?」
「確かに義理はないわね。でも、あなたには受け入れてもらうわ。なにせ、そうしなければ・・・・・・国が滅びるもの」
「っ・・・・・・!?」
シェルディアが笑みをゾクリとするものに変える。同時に、シェルディアは自身の重圧を完全に解放した。空気が軋み肺腑が抉られるような、常人では耐えられないような重圧を受けたギルメリドは、その顔に尋常ならざる緊張を奔らせた。
「・・・・・・やり方エグ過ぎねえか? 国滅ぼすぞって言って国王脅すとか、俺ら普通に死刑だろ。いや、嬢ちゃんの事だから、本気で国は滅ぼさないだろうが・・・・・・」
「何を今更。というか、死刑になっても、別に私たち全員死なないから意味ありませんよ」
その様子を見ていた影人とフェリートが小さな声でそんな会話をする。玉座の間には今ギルメリドとシェルディア、影人、フェリート、ゼノの4人しかいない。最初は王妃や文官のような者たちもいたのだが、ギルメリドが下がらせたのだ。ギルメリドは、シェルディアの怪物ぶりを本能ですでに察していた。
「おい、何をナチュラルに俺も数に入れてんだよ。俺は別に不死じゃねえ。確かに『世界』を顕現してる時と『終焉』使ってる時は不死だし、2回生き返ってるが。お前らと一緒にするな」
「よくもまあ、それで一緒にするなと言えますね・・・・・・」
影人の抗議を聞いたフェリートが呆れたような顔を浮かべる。2人はそんな会話を交わしていたが、ゼノは1人でボケーと天井を見つめていた。3人とも、こんな空気感だというのに、気負っている様子はない。ここにいる者はギルメリドを除いてまともな者はいなかった。
「・・・・・・本気のようだな。そして、実際にそう出来る力もあると見受ける。少女のような見た目でそれだけの力、加えて身体に特徴がない事を考えるに・・・・・・お前は、いやお前たちは吸血鬼か。長年姿を隠し続けて来た吸血鬼たちが国盗りでもやろうというのか」
「正体は当たっているけど他は外れよ。私たちはただメザミアに行きたいだけ。そして、行って何をするでもないわ。証拠はないけど信じなさい」
傲岸にシェルディアはそう言い放つ。国を滅ぼされないためには信じるしかないギルメリドは悩むようにその目を伏せた。
「・・・・・・よかろう。俺には君主としてこの国と国民を守る義務がある。今回だけはその言葉を信じ、貴様らの頼みを聞いてやる」
「ありがとう。感謝するわ」
「ふん。脅しておいてよく言う。・・・・・・少し待て。今他の者に地図を持ってこさせ――」
シェルディアが感謝の言葉を述べ、ギルメリドがその顔を不快に歪ませる。そして、ギルメリドがそう言葉を紡ごうとした時、
「お父様、こちらにおいでですか?」
突然、玉座の間のドアが開かれ1人の若い女が姿を現した。ギルメリドと同じような耳を生やした、若草色の長い髪の女性だ。薄い青色を基調としたドレスの糸目の美人だ。その女性は全体的におっとりとした雰囲気を纏っていた。




