第1593話 まさかの同伴者(1)
「私は王都警備隊隊長のシュゼイ。いきなりこんな事をして失礼ではあるが、まずは私の質問に答えてもらおう」
影人たちに動くなといった獣人族の若い女性――シュゼイは薄茶色の髪を揺らし、厳しいライトブラウンの瞳を影人たちに向けると、そんな言葉を放った。
「まず、貴様らは何者だ? 身体的な特徴が何もないが・・・・・・魔妖族か?」
魔妖族の中には身体的特徴がない者も稀にいるという事を知っていたシュゼイがそんな問いかけを行う。その問いかけにシェルディアは首を横に振った。
「いいえ、私たちは吸血鬼よ」
「なっ、吸血鬼だと・・・・・・!?」
シュゼイは一転、その顔を驚愕の色に染めた。シェルディアたちを囲んでいた者たちも「吸血鬼!?」「ほ、本物かよ・・・・・・」とザワザワと困惑したように言葉を交わしていた。
「・・・・・・貴様たちが吸血鬼として、次の質問だ。お前たちは何が目的でこの王都にやってきた? 入国の許可証はあるのだろうな?」
(やっべー、やっぱり入国の許可証とかいるのか・・・・・・)
続けられたシュゼイの質問を聞いた影人は内心でそんな事を思った。影人たちは不法入国者なので、そんな物あるはずがない。許可証がどんな物か分かれば、影人がスプリガンに変身して偽造出来るが、それは色々と現実的な方法ではなかった。
「道を聞きたいのよ。私たち、メザミアという場所に行きたいのだけれど、そこに行くなら王都を通ると言われたから。そうだ。あなた、メザミアへの行き方を知ってるかしら?」
シェルディアは逆にシュゼイにそう聞いた。当然ながら、シェルディアに物怖じした様子は全くない。フェリートとゼノも、シェルディアと似たような様子だ。そして、影人も無駄に修羅場を潜っているので、その態度には余裕があった。
「っ、質問をしているのはこちらの方だ! 取り敢えず、入国許可証を見せろ! 話はそれからだ!」
そんな影人たちの態度が気に入らなかったからか、シュゼイが声を荒げ催促してくる。周囲で影人たちと警備隊を見ていた野次馬たちも、その顔に緊張を奔らせた。
「悪いのだけれど、それはないのよね。メザミアの場所さえ教えてくれれば、ここから出て行ってあげてもいいけど」
「やはり不法入国者か! 不法入国者は牢に入れるのが決まりだ! 警備隊一同、この者たちを拘束せよ!」
「「「「「はっ!」」」」」
シュゼイが命令を下す。すると、囲んでいた警備隊たちが影人たちを捕らえようと距離を詰めて来た。帯剣している剣は抜いていないので、素手で影人たちを捕える気だろう。4人に対し数十人。普通ならば捕られられる場面だ。それが予定調和というもの。
だが、
「無礼よあなた達。誰が私に触れていいと言ったの?」
予定調和は起こらなかった。少女の姿をした怪物はその顔を不機嫌の色に染めると、その身から尋常ならざる重圧を放った。
「「「「「っ!?」」」」」
「っ!? な、なんだこの重圧は・・・・・・」
その重圧を受けた警備隊たちが竦む。当然、見ていた野次馬たちも。隊長であるシュゼイも、本能からかその体を震わせていた。
「・・・・・・まあ、嬢ちゃんのプレッシャー喰らったら普通はそうなるよな」
「戦わなくていい感じかな?」
「はあー、一応非は全てこちら側にあるのですがね・・・・・・」
シェルディアの重圧に慣れているではないが、色々と普通ではない影人、ゼノ、フェリートはそれぞれの反応を示した。いずれも、緊張した様子や竦んでいる様子は全くなかった。
「退きなさい、邪魔だから。退かないなら蹴散らすわよ」
シェルディアは正面にいるシュゼイを冷たい目で見つめた。
「くっ・・・・・・ひ、退いてなるものか! 貴様らのような危険者を野放しには出来ない! もし抵抗するというのならこちらも容赦はしないぞ!」
シュゼイは流石は警備隊の隊長と言うべきか、剣を引き抜くとシェルディアにその切っ先を向けた。体は依然として震えていたが、それでもシュゼイはそう言ってみせた。
「・・・・・・その気概は買ってあげるわ。だからまあ、殺さないであげる」
シェルディアが軽く息を吐く。すると、シェルディアの影が幾重にも分かれ、目にも止まらぬ速度で、まるで鞭のように警備兵たちを打った。影に打たれた兵たちは「がっ・・・・・・」「ぐっ・・・・・・」と声を漏らし地面へと倒れていった。
「うっ・・・・・・わ、私は・・・・・・」
それはシュゼイも同様だった。いくら実力がある隊長だといえども、今回は相手が悪すぎる。シュゼイはそう呟くとドサリと地面に伏した。
「け、警備隊たちが・・・・・・」
「一体なにが・・・・・・」
「ば、化け物だ・・・・・・」
その光景を見ていた野次馬たちが恐ろしげな顔になる。その空気を感じ取った影人はこう呟いた。
「・・・・・・完全にお尋ね者になっちまったな」
「仕方ないわ。でも、こうなったら行き先を聞くのは難儀よね。・・・・・・ああ、いい事思いついたわ。お尋ね者なら、お尋ね者らしく聞けばいいのよ」
「何それ。どんな方法なのシェルディア?」
シェルディアは何かを思いついたように軽く手を叩いた。そんなシェルディアに、ゼノはそう聞いた。
「この国で1番偉い者に、正面から聞きに行くの」
シェルディアはそう言うと、そびえ立つ城を指差した。




