第1592話 獣人族国家 ゼオリアル(4)
「そうですか。どうやら、思っていたよりも飛ばしていたようですね・・・・・・分かりました。では、2つ目の質問を。私たちはメザミアという場所を目指しているのですが、その場所へはどうすれば行けますか?」
「メザミア? そりゃまた変わった場所目指してるな。あそこはゼオリアルの西端にある田舎町だぜ。古い遺跡が1個あるくらいで、観光する場所もない。そんな所にあんたら何しに行くんだ?」
「少し探している人物がいましてね。私たちと同じ特徴のない者・・・・・・その者も吸血鬼なのですが、その人物がそこにいるかもしれないんです。最近、私たち以外で吸血鬼を見たりはしていませんか? もしくは噂になっているとか」
フェルフィズを吸血鬼と偽ってフェリートが3つ目の質問をする。だが、男はかぶりを振った。
「いや、全く。俺はあんたら吸血鬼を今日初めて見たし、ゼオリアルでも噂にはなってないと思うぜ」
「そうですか・・・・・・ありがとうございました」
「いや、礼を言われるような事はしてねえから気にしないでくれ。それで、メザミアへの行き方だったな。だったらまずは王都に行ってみるといい。どっちにしろ、メザミアに行くのには王都を通るからな。王都は関所を超えてデカイ山を2つほど迂回して1日か2日くらい歩けば着く。標札が出てるから迷わないと思うぜ」
最後にメザミアへと至る過程の道を男が教えてくれた。そして、男は再び歩いて行った。
「・・・・・・という事ですから、まずは王都とやらに行きましょうか。王都という言葉からするに、獣人族の国は王が統治する君主制のようですね」
男の背中を見送りながらフェリートが一同にそう言った。フェリートの言葉にゼノはこう言葉を返した。
「それはいいけど、関所どうするの? 多分だけど、何か許可証とかないと国に入れないと思うよ」
「あら、別に私が催眠の力を使えばいいだけだじゃなくて? あの街から離れているし、ヘレナとハルには迷惑も掛からないでしょうから今回は使えるわよ」
「別にわざわざ催眠の力使わなくても、関所抜ける方法ならいくらでもあるぜ。というか、王都って所に行くならもっと時短の方法使えるな。どうする、それ使うか?」
影人が3人に対しそう提案する。影人にそう聞かれたフェリート、ゼノ、シェルディアは顔を見合わせると、やがて頷いた。
「確かに、王都への道は聞けましたからね。メザミアの場所は王都でまた聞けばいいだけですし」
「だね。道中が旅の醍醐味だけど、時短出来るとこは時短した方がいいし」
「それで影人。その方法ってどんな方法なの?」
どうやら3人とも賛成のようだ。影人は、3人にその方法を告げた。
「別に簡単な方法だぜ。まずは・・・・・・」
「――着いたな。多分、ここが王都って所だろ」
それから約数分後。影人たちは王都と思われる町の中にいた。王都というだけあって華やかで、正面には白を基調とした立派な城が見える。王都はグルリと高い防壁で囲まれており、影人たちの後ろには大きな門があった。
「一瞬で着いたね。君がいると便利だなぁ」
賑わう城下町を見渡しながらゼノがそう呟く。影人たちが数分で王都に到着する事が出来たのは、全て影人のスプリガンの力によるものだった。
まず、影人は自分とゼノとシェルディアとフェリートに浮遊の力を掛けた。そして空高く上昇し、影人たちは空高くから地上を見下ろした。
結果、関所や男が言っていた山々、更に山の先に大きな都市などが影人たちの視界に映る事になる。その大きな都市が、先程の獣人族の男が言っていた王都だと判断した影人たちは、影人の転移の力を以てこの街まで転移してきたというわけだ。影人の短距離間の転移の定義は視界内。そのために影人は上空へと浮遊したのだ。
「まあ、恐らくは不法入国くさいが大丈夫だろ。いざとなったら、どうとでも出来るしな」
スプリガンとしての変身を解いた、通算何度目かとなる不法入国野郎は気にした様子もなくそんな言葉を述べた。色々と暗躍し過ぎたりしてその辺の感覚が前髪野郎はバカになっていた。
「そうね。今は手間を取るよりこちらの方が都合がいいわ。さて、じゃあ早速道行く人々にメザミアの場所を――」
シェルディアがそう呟こうとした時だった。突然――
「動くな!」
影人たちに対してそう声が飛ばされた。声を飛ばして来たのは、部分的な鈍色の甲冑を纏った獣人族の若い女性だ。まるで、女性騎士といった出立ちの女性に続くように、女性と同じような格好をした若い男女たちが影人たちを取り囲んだ。
「あら・・・・・・」
「ん、ちょっと面倒事な予感」
「はあー・・・・・・なんとなくですが、嫌な予感はしていましたよ・・・・・・」
「・・・・・・マジかよ」
謎の集団に取り囲まれたシェルディア、ゼノ、フェリート、影人はそれぞれそんな反応を示した。
――旅にイベントは付き物だ。




