第1591話 獣人族国家 ゼオリアル(3)
「イヴだったかしら。まさか、あなたのような可愛い子がスプリガンの力の化身だなんてね。パーティーの時にあなたがペンデュラムになったのは、そういう理由からだったのね」
「まあな。後、可愛いは余計だぜ吸血鬼サマ」
「そう? それは失礼。これからよろしくね、影人の娘さん」
「だから娘じゃねえよ。こいつの虚言だ」
シェルディアがニコリと微笑む。シェルディアにそう呼ばれたイヴは苦虫を噛み潰したような顔で影人を指差した。
「あー、痛かった・・・・・・イヴ、脛への不意打ちはマジでやめろよな。後、ついでにフェリートにも挨拶してこいよ。お前あいつと戦った事あるだろ。次の目的地に行くまでは、俺も変身解かないしお前も消さないから」
「おー、いいなそれ。ちょっとあいつからかって来るか」
イヴは面白そうに笑うと、一旦自身の体を粒子のようにバラして御者席の方へと移動した。そして、再び実体化しフェリートの横に座った。
「よう、片眼鏡。俺はイヴだ。よろしくな」
「っ!? だ、誰ですかあなたは・・・・・・急に現れて・・・・・・」
御者席ではイヴとフェリートがそんな会話を交わしていた。当然ながら、イヴの事を知らないフェリートは驚いた様子で。だが、それで馬が止まりはしなかったので流石と言うべきか。
それから、上空に浮かぶ太陽が頂点を少し過ぎた辺り。影人たちが窓から見える景色を眺めたりして寛いでいると、スッと馬車が止まった。
「獣人族の男性がいましたので声を掛けます」
小窓からフェリートが室内にいた者たちに馬車を止めた理由を告げる。フェリートは御者席から降りた。イヴは興味がないからか、御者席に座ったままだったが。
「な、なんだあんたら? 耳も翼も尻尾もねえが・・・・・・それに、この何か凄え乗り物は・・・・・・王都にあるっていうメビルの引き車っぽいっちゃぽいが・・・・・・」
客車内にいた影人たちもフェリートに続き外に出る。すると、熊のような耳を頭に生やした中年くらいの獣人族の男性が驚いた顔を浮かべていた。
「すみません、実は私たち旅中の吸血鬼の者でして。いくつか尋ねたい事があるのですが、少しお時間よろしいでしょうか?」
獣人族の男性に話しかけたのはフェリートだった。フェリートは完璧な笑みを浮かべながら、男にそう言った。
「吸血鬼・・・・・・はー、あんたら吸血鬼なのか。初めて見たぜ。まあ、俺に答えられる事なら構わねえが・・・・・・」
「ありがとうございます。ではまず、ここから獣人族国家までは後どれくらいでしょうか?」
獣人族の男性は物珍しそうにフェリートや影人たちを見回し、フェリートの頼みを了承した。フェリートは早速そんな質問をした。
「ゼオリアルまでか? 一応、後2〜3時間くらい真っ直ぐ歩けば関所に着くぜ」
ゼオリアルというのは、男の言葉からするに獣人族国家の名前だろう。影人たちは言葉こそ通じるようになっているが、異世界の文字は読めないので、地図に書いてある文字は読めない。唯一読めるのはシェルディアだけで、影人たちもシェルディアに国の名前などは聞かなかったので、今まで獣人族国家の名前を知らなかったのだ。
ちなみにではあるが、シェルディアも完全にはこちらの文字を理解出来ていない。年月の経過からか、文字が変容しているらしい。ただ、似ている箇所が多いので、ある程度は理解出来るという事だった。




