第1590話 獣人族国家 ゼオリアル(2)
「懐かしい感覚ですね・・・・・・では、シェルディア様、ゼノ、帰城影人、どうぞ中へ」
フェリートが後ろの客車の中に入るように促す。影人たちは客車の扉を開けて中に入った。
「あら、案外広いわね。それに素敵だわ」
「本当だ。ベッドまである。普通に寝れるねこれ」
中に入ったシェルディアがそんな感想を漏らす。客車の外の色は黒と金だったが、中もその2色を基調としていた。客車の奥には2台の2段ベッドがあり、御者席側にはテーブルとそれを囲むように設置された革張りのソファ。そして、2台の木のイスがあった。
「気に入ったか? だったらよかったぜ」
影人は木のイスに腰掛ける。シェルディアとゼノは革張りのソファの方に座った。
「皆さん座ったようですね。では、行きますよ」
御者席と客車を繋ぐ小窓を開けたフェリートが確認を取る。そして、フェリートは手綱で軽く2頭の馬を打つと馬車を発進させた。
「「!」」
フェリートに打たれた馬たちはその俊足で以て駆け始めた。
「そういえば、この馬車っていつまで保つの? 君の力を使って動かしてるなら、いつか君の力に限界が来るはずでしょ」
馬車に乗り始めて少しすると、暇だからかゼノが影人に大しそんな事を聞いて来た。
「・・・・・・創造の力は、基本的に物を創る時にしか力を消費しない。それ以降は俺が消さない限り、スプリガンの変身を解かない限りはずっと消えない。だから、安心しろよ」
「へえ、そうなんだ。神力って本当、凄い力だね」
「そりゃ神の力だからな。基本的には何でもありだ。・・・・・・本当、使ってて思うがつくづくチートだぜ。この力は」
ゼノの感想に影人がしみじみとした様子でそう呟く。本当にこの力には幾度助けられたのか分からない。
『はっ、当たり前だ。なんせ俺の力だな』
すると、影人の中にイヴの声が響いた。顔は見えないが絶対にドヤ顔だと分かるような声だ。
「ああ、お前は最初から自分の力の正体知ってたもんな。なんせ力の意志だし」
「? 君、誰と話してるの?」
「ソレイユ・・・・・・という感じではないわよね」
影人がつい肉声に出してイヴに言葉を返すと、ゼノとシェルディアが不思議そうに首を傾げた。
「誰って・・・・・・ああ、そりゃそういう反応になるか。丁度いい、紹介しとくか。イヴ、肉体創って出て来ていいぞ」
影人がそう言うと、影人の隣に1人の少女が出現した。10代前半くらいの黒いボロ切れのような服を纏った少女――イヴだ。イヴは紫がかった黒髪を揺らし、奈落色の目をゼノとシェルディアに向けた。
「よう初めましてだな『破壊』の闇人に吸血鬼サマ。いや、吸血鬼サマに限って言えば、会った事あるか。この前のパーティーの時にな」
「っ、あなたは・・・・・・」
「君、誰?」
イヴにそう言われたシェルディアはハッと何かに気づいたような顔になり、ゼノは変わらず首を傾げたままだった。影人は2人に対しイヴの紹介を始めた。
「紹介するぜ。こいつはイヴ。フルネームはイヴ・リターンキャッスル。俺の力の化身で、俺の娘だ。というか、イヴ。またその服かよ。この前のパーティーの時みたいな服着れば――」
影人が少し呆れたように小言を言おうとすると、イヴが思いっきり影人の脛を蹴って来た。影人が反応出来ないように少し『加速』の力を使って。イヴに蹴られた影人は「痛え!?」と悲鳴を上げた。
「あの時は真界の神サマに無理やり着せられてたんだよ! つーか何回も言ってるが俺はお前の娘じゃねえ! 誤解させるような言い方するな! 脳腐ってんのかこのバカ前髪野郎!」
体を屈ませる影人にイヴが怒った言葉を投げかける。その様子見ていたシェルディアとゼノは「あら」「仲がいいんだね」と小さく笑った。




