第1577話 複合都市 キリエリゼ(1)
「そう言えば、皆さまは何族なんですか? ツノとか尻尾とか翼とかはないご様子ですけど」
影人たちがハルとヘレナの後を歩いてると、ハルがそんな事を聞いて来た。影人は例の如く言葉が分からなかったので、何も言葉は発さなかった。
「何族・・・・・・? シェルディア様、これはどう答えれば・・・・・・」
フェリートが小さな声でシェルディアに声を掛ける。フェリートにそう聞かれたシェルディアは、「大丈夫。私に合わせて」と言ってフェリートを含めた影人、ゼノの3人に軽く片目を瞑った。その仕草には見た目からは想像出来ない妖艶さと上品さがあった。さすがはシェルディア。魔性の女である。影人はそう思った。
「実は私たち吸血鬼なのよ。だから、身体上の特徴がこれといってないの」
この世界に人間という種族はいない。ゆえに、シェルディアはハルとヘレナにそう説明した。理由は、まあ色々と説明するのが面倒だからだ。
「へえ、そうだったんですか! 私、吸血鬼の方たちを見るの初めてで! なるほど、だからツノとか尻尾がないんですね!」
「凄い、本当にいたんだ・・・・・・」
吸血鬼という言葉を聞いたハルとヘレナは驚いた顔を浮かべた。その反応を見たシェルディアは逆に少し不思議そうな顔になる。
「あら、そんなに珍しい? 確かに、吸血鬼は昔から他の種族とは仲が良くはなかったけど」
「はい。様々な種族がいる複合都市にも吸血鬼の方はいませんから。噂では吸血鬼の方々は『血影の国』にいるらしいですが・・・・・・皆さんはそこから来たんですよね?」
「いや、私たちは別の辺境の地からよ。・・・・・・それにしても、『血影の国』ね。私がいた時は吸血鬼の国なんかなかったはずだけど・・・・・・いったい誰が作ったのかしらね」
ヘレナの答えを聞いたシェルディアは後半は独白するようにそう呟いた。それから、影人たち一行がしばらく歩いていると――
「あ、見えてきましたよ! あれが複合都市キリエリゼです!」
ハルが前方を指差した。影人たちからまだかなり離れてはいるが、大きな都市が見える。その都市は平原部の真ん中にあったが、周囲を隔てる壁のようなものはなかった。
「へえ、大きな町ね。城壁のようなものはないけど、安全面は大丈夫なの?」
「キリエリゼは何か危険があった時は魔法障壁が展開されるように設計されているんです。まあ、キリエリゼは各種族の国家間の約定により設置された都市で、各種族の代表による議会で運営されていますから、ここを攻めるような者たちは今のところいませんが。障壁が作動するのは、凶暴な魔獣がキリエリゼの近くに現れた時くらいですね」
「へえ、そうなの。それは色々と興味深いわね」
ヘレナの言葉にシェルディアは少し面白そうな顔を浮かべた。シェルディアがいた時は各種族の仲は良くなく、基本的にはいつも争っていた。いわゆる戦国時代のように。だが、いつの間にか種族間の隔たりを超えて、議会制の都市が生まれている。その事実は、シェルディアからすれば明確な時の経過を感じさせるものだった。
「到着です! ようこそ、キリエリゼへ!」
それからまたしばらく歩き続け、影人たちは複合都市キリエリゼへと到着した。ハルは両手を上げ元気いっぱいという感じで影人たちにそう言った。




