第1576話 ハロー、異世界(4)
「でも、どうやってバジダハルを傷つけたんですか? バジダハルの皮膚は刃も通さないほど堅牢で、魔法も弾く防魔皮でもあるのに・・・・・・」
「そうなの? 別に全く硬くなかったけど。それよりも、1つ聞いてもいいかしら? この辺りで1番栄えてる場所はどこにあるの? あるなら教えてほしいのだけど」
ヘレナの質問にシェルディアは適当に言葉を返すと質問を行った。
「ありますよ。この大陸で1番大きい複合都市が。私とハルはそこに住んでいますし」
「複合都市? それは何と何の複合なのかしら?」
「各種族の複合って意味です! もしかして、皆さんどこか遠い所からいらっしゃったんですか? 複合都市って有名だと思うんですけど・・・・・・」
ハルがシェルディアに複合の意味を説明し、逆に影人たちにそんな事を聞いてくる。相変わらず、影人にはその言葉は理解出来なかったが、4人を代表するようにシェルディアがこう答えた。
「ええ、実はそうなの。旅をしていて、この辺りで大きな町を探していたら森で迷っちゃって。よければその複合都市の場所を教えてくれないかしら?」
(なるほど。そういう設定でいく感じか)
シェルディアの言葉を聞いた影人はある程度の事情を察した。まあ、いきなり実は異世界から来ましたなんて答えれば場が混乱するだけだろう。その事を影人やフェリート、ゼノは理解していたので口を挟むような事は何もしなかった。
「もちろんいいですよ。ちょうど私たちもそろそろ帰るつもりでしたし、複合都市まで案内しますね」
「目標のキナキノコは採れたもんね! そうだ、都市についたら食事をご馳走させてください! 命の恩人様ですから!」
「あらそう? ありがとう。素直にお言葉に甘えさせてもらうわ」
ヘレナとハルの提案をシェルディアは素直に受け入れた。シェルディアが何かを了承したらしいという事は分かったので、影人は隣にいたフェリートにこっそりとこう聞いた。
「なあ、嬢ちゃんは何をOKしたんだ? お前ら別に難しそうな顔してねえから言葉分かるんだろ?」
「あの方達が町にまで案内してくれるようです。というか、なぜ私がいちいちあなたに説明をしないといけないのですか」
「仕方ねえだろ。言葉はスプリガンに変身しないと多分だが分からないんだよ。流石に今は変身出来ねえし」
「あなた達行くわよ。この子達が案内してくれるようだから」
影人とフェリートがそんな言葉を交わしていると、シェルディアが影人たちにそう呼びかけてきた。影人たちはハルとヘレナの後をついて行った。
森は体感時間ではあるが、30分くらいで出る事が出来た。ハルとヘレナ曰く、この森は「メルレイムの森」という中規模くらいの森らしい。基本的には安全な森らしいが、先ほどの魔獣(危険な獣はこちらの世界ではそう呼ばれるらしい)なども数は少ないがいるらしいので、リスクはある森のようだ。相変わらず影人には2人の言葉は分からなかったので、フェリートから聞いた。
「おお、こいつは・・・・・・」
森を出た影人は思わず感嘆の声を漏らした。
森の外は平原だった。遮蔽物はほとんどない。あるとしても岩くらいだ。薄らと草が生い茂り、空の色や雲、太陽などは影人たちの世界と変わりがないように見える。ただ、影人の見間違いでなければ空に岩や島のようなものが所々浮いているように見えた。
「これが異世界か・・・・・・何だか、ちょっと懐かしい感じがするな。過去の世界にどこか似てるっていうか・・・・・・」
「そうだね。あの頃の世界に似てる」
「ここが自然豊かな地域なのかは知りませんが、文明のレベルはそれ程進んではいないようですね」
影人、ゼノ、フェリートがそんな感想を述べる。紀元前の世界を知っている影人とゼノは懐かしさのようなものを覚え、フェリートは感想というよりかは分析の言葉を呟いた。
「・・・・・・ただいまと言うべきなのでしょうね」
シェルディアはその瞳に様々な感情を乗せ、ポツリとただ一言そう呟いた。この辺りの光景はシェルディアがこの世界を去る前とあまり変わっていないように思えるが、他はわからない。影人たちが立ち止まっていると、ヘレナとハルが不思議そうな顔を浮かべた。
「皆さんどうされましたか?」
「もしかして、どこか調子が悪かったり?」
「ごめんなさい。別に何でもないの。ただ、少し色々と感じてただけよ」
「そうですか。なら、行きましょう。複合都市はここから1時間くらいで着きますから」
ヘレナは小さく笑みを浮かべるとハルと共に歩き始めた。影人、シェルディア、フェリート、ゼノの4人は2人の後をついて行った。
(ハロー、異世界。これからしばらくの間・・・・・・よろしく頼むぜ)
2人について行きながら、影人は心の中でそんな言葉を呟いた。




