第1574話 ハロー、異世界(2)
「あら、どうやらどこかの森の中のようね。残念だわ、もっと眺望がいい場所だと嬉しかったのだけど」
シェルディアが呟いた通り外は森の中だった。見たところは元の世界の森と同じように見える。木の形や葉の色もおかしなところは何もない。
(やっぱり、転移して来た場所は遺跡みたいだな。多分だけど)
影人は振り返り自分たちが出て来た建物を見た。建物は古い欠けた石で作られており、そこに木の一部が同化している。そのため全貌も見えずパッと見た感じでは建物とは分からないだろう。影人はその雰囲気からその建物を遺跡と判断した。
「どうする? 森から出る? それとも、今日はここで野宿の準備でもする? 俺たちも死にはしないけど腹は減るし、寝なきゃ疲労も溜まるしね」
「まだ日も高いし準備はいらないわ。それに、野宿の今で言うアウトドア用品かしら。それは一式私の影の中にあるし。食料や水も主に影人のために大分買い込んで影の中に入ってるし問題ないわ。私の影の中の物は、影に入れる前の状態で保存されるから日数とかも気にしなくていいし」
「ああ、それで何も用意はいらないって言ったのか・・・・・・」
ゼノへのシェルディアの返答を聞いていた影人は得心したように言葉を漏らした。数日前にシェルディアに異世界には何を持っていけばいいかと聞いた時に、シェルディアは「スプリガンの変身道具以外には何もなくて大丈夫よ」と言った。その時はまあ、シェルディアがそう言うならと思ったが、どうやら色々と自分のために用意をしてくれていたようだ。
「何から何までありがとう嬢ちゃん」
「ふふっ、気にしないで。私がそうしたかっただけだから」
影人が感謝の言葉を述べると、シェルディアは笑みを浮かべた。その様子を見ていたフェリートは「よくもまあ、シェルディア様を嬢ちゃん呼び出来ますね・・・・・・」と軽く呆れたような顔を浮かべ、ゼノは「そうなんだ。それは楽だ」と先ほどのシェルディアの言葉に対する感想を述べた。
野宿の準備を何もする必要がないと分かった影人たち4人は、森から出るべく森の探索を始めた。
「そう言えば、嬢ちゃんこっちの世界でも転移は使えるのか? 使えるんだったら、どこか街っぽい所に転移出来るんじゃないか?」
「もちろん使えるし、こちらの世界の場所は粗方回ったつもりよ。でも、もしかしたら当時と地形なんかが変わってるかもしれないし、転移して海の中とか沼地や火山の中だったりしたら嫌でしょう? だから、転移を使う前に地図か何かで色々確かめてからにしたいの」
「確かに、それは嫌だな・・・・・・うん、嬢ちゃんの考えの通りにしよう」
シェルディアから転移の問題を提起された影人が頷いた時だった。突然前方から――
「グガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
何かの獣の咆哮と悲鳴が聞こえて来た。
「っ・・・・・・!?」
「あら、何かしら」
「・・・・・・何やら早速面倒事な予感がしますね」
「悲鳴の方は2つとも声が高いし、両方女かな?」
その咆哮と悲鳴を聞いた影人、シェルディア、フェリート、ゼノはそれぞれの反応を示した。
「グガァァァァァァァッ!」
影人たちの視界内に咆哮を上げる獣が映る。その獣は四足歩行の熊のような獣であった。ただし、熊のようなとはその巨大な体だけで、頭部は狼のようで口が長く広い。そこからは夥しい数の牙が覗いている。加えて、全身は灰色の鱗に覆われ巨大な尻尾まで生えている。その獣は明らかに地球には存在しない生き物だった。




