第1572話 あちら側の世界へと(4)
「・・・・・・ああ、分かってるよ。俺は絶対に帰ってくる。約束だ。だから、こっちの世界の事はしばらく頼むぜ」
「っ・・・・・・ふん、誰に言っている」
真っ直ぐな影人の言葉を聞いたレイゼロールは、安心したように少し口元を緩ませた。
「ゼノ。向こうの世界に行ったら、フェリートとお前の封印を壊せ。お前たちの封印の約定はこの世界だけに限定されている。ゆえに、異世界ならばその約定外だ。・・・・・・このバカ者を頼んだぞ」
「うん、分かった。任せてよ、レールの大事な人間を死なせはしないから」
「ええ、不本意ではありますが、レイゼロール様に代わり帰城影人を守ります」
元の無表情に戻ったレイゼロールがゼノに最後にそう言葉を掛ける。ゼノとフェリートはそれぞれ頷いた。
「俺はガキかよ・・・・・・でもまあ、いいか。話は終わったな? じゃ、そろそろ真界に向かうぞ」
影人は内心でシトュウに念話をした。そのまま転移をすれば目立つので、レイゼロールに認識阻害の結界を張ってもらい、公園にいる者たちの意識から影人たちの認識を消す。その間に、影人たちは転移の光に包まれた。
「じゃ、行ってくるぜレイゼロール。またな」
「・・・・・・行って来い。今度は長く待たせるなよ」
最後に影人とレイゼロールはそんな言葉を交わした。互いに小さく笑みを浮かべながら。
そして、影人、シェルディア、フェリート、ゼノはその場から姿を消した。
「・・・・・・来ましたね。準備は既に出来ています」
影人たち4人が真界の「空の間」に転移すると(影人以外の3人の真界への入界の許可は一時的にだが既になされている)、シトュウが4人を見据えそう言った。シトュウの右横の空間には、透明の門があった。
「ありがとうシトュウさん。本当、迷惑掛けっぱなしでごめん」
「・・・・・・一応、私も境界の修復作業で忙しいので、確かに迷惑は迷惑です。ですが、彼の忌神の関係する事ならば仕方がありませんからね」
シトュウは影人の言葉に対して正直な気持ちを述べると、こう言葉を続けた。
「あなたが異世界に行っている間は頼まれていたように、軽い世界改変をしておきます。すなわち、あなたの存在の有無を誰も気にかけないという。もちろん、あなたが戻って来た時はあなたはずっとこの世界で日常生活を送っていたという認識になっているので、安心してください」
「マジでありがとう。いやー、それが最大の悩みだったからさ。本当助かるよ。ああ、でも――」
「分かっています。一部の人間やそれ以外の者たちは、世界改変の影響を受けないようにします」
影人が確認を取る前にシトュウはそう言った。一部の人間とは、具体的に陽華や明夜、光司や暁理、ロゼといった者たちで、それ以外の者たちとはソレイユやキベリアといった影人の日常と関わりのある人物たちだ。影人は以上の人物たちには自分がしばらくの間異世界に行く事を伝えていた。中にはレイゼロール同様に影人に着いて行くといった者たちがいたが、影人は断った。
ちなみに零無の姿がないが、零無も異世界には行かず地上世界でお留守番だ。その理由は、シトュウが開く異世界の門がシトュウが忙しいために真界でしか開けないからである。零無は真界には出禁なので、影人に着いて行けないという形だ。なので、零無は現在影人の家にいる。尋常ではなく不満げで軽くまた狂っていたが、影人は仕方がないだろうと言って無理やりも無理やりに零無に納得させた。
「最終確認です。異世界に行くのはあなた達4人。それで間違いはないですね?」
「ああ。各自の戦闘能力、少数での身軽さとかを考慮してこの4人になった。俺たち4人が異世界に行くメンバーだ」
シトュウの透明の瞳を前髪の下の両目で真っ直ぐに見つめながら、影人は頷いた。
「了解しました。では、この門を潜ってください。この門の先があなた達の言う異世界に繋がっています」
シトュウがスッと右手を門に向ける。影人、シェルディア、フェリート、ゼノはその門の前へと並んだ。
(まさか異世界に行く事になるなんてな。俺の人生、本当どうなってんだか・・・・・・だが、はっ上等だ。何でも来やがれ。とんでもない事にはもう慣れたからな)
影人はニヤリと笑みを浮かべた。影人も人間。多少の不安はある。しかし、それよりも影人の中にはフェルフィズを見つけるという気概と、少しのワクワク感があった。
「さて・・・・・・行くか」
「ええ」
「全く・・・・・・仕方ない」
「楽しみだな」
そして、影人、シェルディア、フェリート、ゼノは異世界への門を潜った。
――こうして、影人たちは異世界へと旅立った。




