第157話 それぞれの事情(1)
「――具合はどうだ、フェリート」
「はい。レイゼロール様のお力のおかげで、ダメージは全て回復しました。口の調子もこの通り。・・・・・・・本当にありがとうございます」
「言ったはずだ。お前は我の駒、ここで失うわけにはいかん。それ以外に理由などない」
レイゼロールはぶっきらぼうに感謝の言葉を述べたフェリートにそう返した。
この世界のどこか。辺りの暗い場所に戻ったレイゼロールはまずフェリートの体を自らの闇の力で回復させた。それによりフェリートの肉体はほぼ元通りとなった。
「・・・・・・ただ血を流しすぎたので、力は再び落ちましたが、これは私の自業自得でしかありません」
前回と同様に、いや前回以上に血を流したフェリートの力はかなり弱まっていた。自然的に力が戻るのを待っていれば、また時間を要するだろう。
「・・・・・・・・それはそうだ。お前は我の言付けを破り、スプリガンと戦った。その結果がそれだ。・・・・・・・・言ったはずだがな、お前の忠義は我に届いていると」
「・・・・・・はい、申し開きはございません。いかなる罰も受ける所存でございます」
真摯な顔でフェリートははっきりとそう言った。主人の命令に逆らい、挙げ句の果て主人の手を煩わした。本来なら殺されても文句の言えない状況だ。
全てはシェルディアから「レイゼロールが久しぶりに血を流していた」と聞き、怒りを抑えられなかった自分の問題だ。
「・・・・・・一応、お前の罰は決めてある。お前にはゼノを探して連れて来てもらう。・・・・・お前も知っての通り奴はシェルディアの次に特異な者だ。どういうわけか私にも奴の気配は察知できない。もちろん経路も何故か途切れている」
「っ!? ゼノをですか・・・・・・確かに彼は特異な闇人ですが、なぜゼノを・・・・・・?」
自分に与えられた罰に疑問を覚えたフェリートは、レイゼロールにそう質問した。
「決まっている。それは奴が最強の闇人だからだ。無論、奴だけでなく好き勝手に各地に散らばっている他の『十闇』も召集する」
「・・・・・・失礼ながら、レイゼロール様。御身の考えを拝聴させていただいてもよろしいでしょうか」
ごくりと唾を飲み込みフェリート。十闇とは、1から10の位階を与えられたレイゼロールの最高戦力。十闇は9人の最上位闇人と、1人の気まぐれな怪物で構成されている。1が最も強く、10が最も低い。
「・・・・・・イレギュラーに対処するため。目障りな光の萌芽をなくすため。主な理由はその2つだ」
「イレギュラー・・・・・・それはスプリガンのことでございますね。光の萌芽は、以前私が殺すことに失敗したあの2人の光導姫のこと・・・・・・ですか?」
「そうだ。シェルディアはあの通り気まぐれだから、あいつがスプリガンを殺すとも限らん。そうなれば対応できるのは、奴らだけだ。そして結局あの光導姫達もまだ殺せていない。・・・・・そろそろ、障害は本格的に排除せねばな。特に、スプリガン。奴はやはり危険だ。今日対峙して再びそのことを認識した」
レイゼロールの脳内に今日対峙したあの暴力的なスプリガンが描かれる。フェリートはあれはスプリガンではないと言っていたが、確かに今日のスプリガンは様子が違っていた。
(特に無詠唱に常態的な闇による身体能力の強化の取得が厄介だ。たったそれだけのことで、奴の強さと危険度は今まで以上に跳ね上がる)
レイゼロールはスプリガンが力の行使による無詠唱と、常態的に身体能力を強化できるようになったと勘違いをしていた。実際には、影人はまだその2つは出来ない。それが出来るのは影人の体を乗っ取った何かだ。
だが、それも無理のないことだろう。レイゼロールは前回その状態のスプリガンに撤退を余儀なくされた。そして今回フェリートを助けに入った時も、たまたまスプリガンは2つのことが出来る状態であったのだから。
「今日のところは休め。お前には明日からゼノを探しに行ってもらう。――十闇第2の闇、『万能』のフェリートよ」
「了解しました。・・・・・・・・主の寛大なる処置に感謝いたします。何としてでもゼノを探して参ります」
フェリートは畏って主の命令を承った。




