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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1568/2051

第1568話 ちっぽけで陳腐な理由(4)

「おや、照れているのかい? ふふっ、君はこういう事にはあまり動じないと思っていたんだが、嬉しい誤算だ。どうだい? 前に提案したように、私と付き合ってみるというのは。存外に、私たちは相性がいいかもしれないよ」

「それは前にお断りしたでしょう・・・・・・すいませんが、今回もお断りしますよ。あの時から色々ありましたが・・・・・・俺の気持ちは変わってないので」

 どこか悪戯っぽい顔を浮かべるロゼに、影人は冷静さを取り戻しそう返答した。既に影人は恋愛感情を取り戻しているが、影人自身は恋人を作りたいとはまだ考えていなかった。

「それは残念だ。もしかしたらと思ったのだが。似たような事は前にも言ったが、でも私はいつでもウェルカムだから、その気になったら言ってくれたまえよ。よし、では帰ろうか。付き合ってもらった礼だ。自販機で飲み物をご馳走しよう」

 その答えを聞いたロゼはフッと笑うと影人から離れた。そして、影人にそう言ってきた。

「あざっす。ピュルセさん、いい女ですね。後これお返しします」

 影人は素直にロゼに感謝の言葉を述べるてな、自分の姿が描かれたキャンバスをロゼに返した。

「分かりやすい世辞だが、それでも君にそう言われるのは嬉しいね。ああ、よければこの絵プレゼントしようか? 私は正直、君を描けただけで満足だから」

「気持ちはありがたいですが、自分の絵なんていりませんよ」

「そうかい。なら、私が預かっておくよ」

 影人からキャンバスを受け取ったロゼは、ポケットに入れていたビニール袋を取り出すとそこにキャンバスを入れた。キャンバスは風洛高校にロゼがお邪魔し始めて以来何十枚か学校に寄付しているので、1枚くらい借りても大丈夫だ。ここを貸してくれた美術部の部長も、キャンバスは持って帰ってもらっても問題ないと言っていた。

「ピュルセさんはフランスには帰らないんですか? 一応、今日で目的は達成したでしょう」

 校舎の外に出た影人は、自販機からロゼに奢ってもらったオレンジジュースを取り出すとそんな質問をした。

「うーん、そうだね・・・・・・確かに、私が日本に来た目的は一応達成された。でも、一応なんだよ。私はまだ君の本質を描き切れていない。だから、それが描けるようになるまでは日本にいるかな。この国は居心地がいいし、その文化も美しい。私にとって刺激的だ。感性を磨くという点でも、この地は私に適しているんだよ」

「そうですか。それじゃ、まだしばらくはよろしくですね」

 オレンジジュースの蓋を開けた影人がスッとロゼに缶を差し出す。影人の仕草の意味を理解したロゼは、自分が持っていたブラックのホットコーヒーの缶をカンと影人の缶と軽く合わせた。

「そういう事だね。私からも質問を1ついいかな。帰城くん、私たちが再び戦う事を決めたように、君もスプリガンとして戦うのかい?」

「・・・・・・まあそうですね。今回の騒動を引き起こした奴と、俺は因縁があるんで。まあ、昨日そいつと戦って情けない事に向こう側・・・・異世界に逃しちまったんですが」

 もはや正体を知られているロゼに隠す事もないので、影人は素直に答えた。ソレイユから既に異世界とそこに生きる者たちの事を聞いていたロゼは、影人の言葉を理解し、その上で少し驚いた顔になった。

「ほう、それは・・・・・・予想以上の答えだよ。まさか、そこまで事態が進展していたとは。暗躍者である事は変わっていないようだね」

「まあ、そうですね。そこは変わってません。だから、俺はそいつと決着をつけるまでスプリガンのままです」

 オレンジジュースを飲み終えた影人は缶を缶入れに入れた。そして、ロゼに別れの言葉を述べた。

「じゃあ、俺はこれで。ご馳走さまでした」

「ああ、帰城くん。もう1つだけいいかい。君はどうしてそんなに戦えるんだい? 過酷極まる戦いに身を投じられるその気概はいったいどこから生まれてくるのだろう。よければ、教えてくれないだろうか」

 ロゼが影人に最後にそんな事を聞いて来た。突然ロゼにそんな事を聞かれた影人は少し押し黙った。

「・・・・・・理由はまあ色々ありますよ。今回の戦いや零無との戦いで言うなら、さっき言ったように因縁って言葉に集約されると思います。レイゼロールとの戦いの時は、最終的には約束のためでした。でも、俺が戦う根源は、いつも関係していた事は・・・・・・」

 そして、影人はロゼにこう答えを述べた。

「何でもない事ですよ。どこにでも転がっていそうな全く陳腐な理由。大切な人たちを、日常を守りたい。ただ、それだけです」

 影人はその場から去った。影人の答えを聞いたロゼは、

「いや・・・・・・実に素晴らしい理由だよ、帰城くん。君はどこまでも人間だ」

 笑みを浮かべそう独白した。












「・・・・・・言語化すると、我ながら陳腐な理由だよな」

 学校を出た影人は先ほどのロゼとの問答を思い出しながら、ポツリとそう呟いた。

「・・・・・・だがまあそれでいい。俺はただの人間だ。行動原理はちっぽけなくらいがちょうどいい」

 影人は改めて自身の戦う理由を自覚すると、フッと笑みを浮かべた。前髪野郎特有の気色悪い笑みを。

(そうだ。俺はそのためなら何でもできる。本当に何でも・・・・・・)

「ああ影人! 今日はいつもより36分と45秒遅かったね! 待ち遠しかったよ!」

 影人がそんな事を考えていると、零無が影人の前に現れた。

「お前は相変わらずだな・・・・・・ああ、そうだ。なあ零無。1つ質問なんだが・・・・・・」

 現れた零無に呆れた影人は、何気ない様子でこんな事を聞いた。


「向こう側の世界って、どうすれば行けるんだ?」

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