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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1567/2051

第1567話 ちっぽけで陳腐な理由(3)

「ああ、そういえばそうでしたね・・・・・・俺なんかを描きたがる理由は理解できませんが。でも、それでピュルセさんが満足するならいいですよ」

 影人はどうにでもしてくれといった感じにそう言うと、新たに生じた疑問をロゼにぶつけた。

「でも、何で鉛筆でデッサンなんですか? ここは美術準備室だから、筆も絵の具もパレットもあるでしょうに・・・・・・」

「デッサンにはデッサンの良さがあるんだよ。それに、これを元に絵を肉付けしていく方法もある。というか、そちらの方が一般的かな。まあ、私は今回はそうするつもりはないが。君を描くにはこっちの方がいいと思ったんだよ」

 ロゼは影人と会話しながらも滑らかに鉛筆を走らせ続ける。ロゼはこれくらいの事で集中力を欠くという事はないので、影人と会話を続けても問題はなかった。

「へえ、そうなんですね・・・・・・すいません、余計な事聞いて。ああ、よかったら前髪上げましょうか?」

「全然構わないよ。気遣いありがとう。だが、今回は大丈夫だ。普段の君を今は描きたいからね」

 ロゼは小さな笑みを浮かべた。その笑みに普段とは違うロゼの格好良さと美しさを感じた影人は「ッ・・・・・・」と少しだけ息を呑んだ。

 それからしばらくの間、影人は話す内容もなかったので黙っていた。ロゼもそれ以降は言葉を発さなかった。

「・・・・・・ありがとう帰城くん。おかげさまで描き終わったよ」

 静寂を破ったのはロゼのそんな言葉だった。ロゼは満足そうな顔を浮かべると鉛筆を側にあった机の上に置いた。

「いえ・・・・・・あの、一応見せてもらってもいいですか?」

「ああ、もちろん」

 少しの好奇心から影人がロゼにそう聞く。ロゼは笑みを浮かべると、影人にキャンバスを渡した。

「うおっ、凄え・・・・・・」

 キャンバスの絵を見た影人は思わずそう言葉を漏らした。そこにあったのはまるで写真のような影人の姿だった。そこには確かな迫力と生命の躍動があった。描かれていたのは毎日鏡で見るような自分の姿なのだが、影人は感動を覚えた。

「ピュルセさんって、ただの変人じゃなくてちゃんと画家なんですね・・・・・・マジで絵が上手い」

「まあ、一応それが仕事だからね。しかし、ははっ、そんなストレートに変人と言われたのは久しぶりだな。まあ、私自身人と少し感性が違う自覚はあるがね」

「あ、すいませんつい・・・・・・」

「いいよいいよ。全く気にしていないから。むしろ、君の本音の言葉を聞くのは嬉しい。私は君ともっと仲良くなりたいからね」

 ロゼはかぶりをふるとパチリとウィンクをした。ロゼにそう言われた影人は、よく分からないといった感じで軽く首を傾げた。

「・・・・・・何で俺なんかと仲良くなりたいんですか? 俺は別に容姿が優れた人間でもなければ、面白い人間でもないですよ」

「そうかな? 君の秘密を知った今の私からすれば、君は世界で1番面白い人間だと思うが。君は自分を随分と過小評価しているんだね」

 ロゼはクスリと笑うと、影人の方に一歩近づき至近距離からその薄い青の瞳で影人を見つめた。

「それに、君は少し勘違いをしている。本当に仲良くなりたい人というものに、そういった要素は必要ないよ。大事なのはただ1つ、その人に惹かれているかどうかという事さ」

「っ・・・・ピュ、ピュルセさん。近いですよ・・・・・・あと、からかうような言葉はやめてください」

 至近距離からロゼにそう言われた影人は思わずロゼから顔を背けた。至近距離であるためか、ロゼからふわりとシャンプーのいい香りがする。影人の心臓の鼓動は色々な理由から少しだけ速くなっていた。

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