第1564話 忌神との戦い2(5)
「「「っ!?」」」
3人が驚いた顔を浮かべる。まさか、先ほどの言葉はブラフでまた転移か。いや、だが今までの転移の消え方と今の消え方は違う。影人たちがそんな事を考えていると、パリンと何かが割れる音が聞こえた。
「私が転移して、あなた達が追いかけてくるまでには数秒の時間差がある。それだけが唯一の私の利点。だから、私はその間に仕込みを1つさせていただきましたよ」
声は影人たちの背後から聞こえてきた。影人たちが振り向くと、数メートルほど離れた場所にフェルフィズがいた。フェルフィズは自身の神器と魔術を組み合わせる事で、擬似的な瞬間移動を行ったのだ。これはフェルフィズの隠し札のため、切るべきタイミングをフェルフィズは見計らっていた。
もちろん、フェルフィズは影人たちの速度には反応出来ないので、隠し札は先ほどの炎の魔術と同じ設置、もしくは地雷型に設定していた。
「そして、どうやら賭けは私の勝ちです」
フェルフィズが狂気を宿した笑みを浮かべると、フェルフィズの背後にパチパチと黒いスパーク迸る闇色の穴が出現した。
フェルフィズが割った2つの瓶は互いに混ざる事によって次元と空間を数秒間だけ不安定にさせるものだ。その結果、向こう側の世界への入り口を開くというものであった。
ただし、試作品のためその成功率は10パーセントほど。ゆえに、入り口を開けるかどうかは賭けだった。失敗すればフェルフィズは万策が尽き、フェルフィズは終わりだったが、幸運はフェルフィズへと傾いた。
「更にそして・・・・・・私の最高傑作の真の力を使いましょう」
フェルフィズは自身の生命力をフェルフィズの大鎌へと流し込んだ。いや、喰わせた。フェルフィズが大鎌に喰わせた生命力は普通の人間ならば即死するような量だ。しかし、フェルフィズは不老不死の神。いわば、無限の生命力を宿した存在だ。地上にいてもそれは変わらない。ゆえに、フェルフィズに影響は何もなかった。
「・・・・・・!」
フェルフィズの生命力をエネルギーとして吸収した大鎌の刃が昏い輝きを放つ。フェルフィズは目には見えぬ、「自身に関する情報を知られる」という因果を意識し虚空に向かって大鎌を振るった。その結果、その因果は殺された。これで、因果から自分の居場所を知られる事はなくなった。
「・・・・・・これで憂いはなくなりました。では、さようなら皆さん。2度と会いたくはないですが、いずれまた会う日もくるでしょう」
「逃すか! 『世界』顕現、『影闇の――!」
フェルフィズは別れの挨拶をすると、フッと体重を後ろに掛けて穴の中に倒れようとした。影人は『世界』を顕現しフェルフィズを逃さないようにしようとし、シェルディアとレイゼロールはフェルフィズに神速で接近し、フェルフィズを逃すまいと手を伸ばしたが間に合わず、フェルフィズは穴の中へと姿を消した。同時に、闇色の穴も虚空へと収束した。
「っ、ちっ! 今度はどこに逃げたか知らねえが無駄だ。シトュウさん、フェルフィズの所まで頼む!」
舌打ちをした影人はシトュウに幾度目かの同じ言葉を伝える。だが、シトュウから返って来た答えは今までのものとは違ったものだった。
『すみませんが・・・・・・どういうわけか彼の忌神の場所を識る事が出来ません。先ほどまでは識る事が出来ていたのですが・・・・・・』
「っ!? って事は・・・・・・」
『はい。残念ですが・・・・・・ここで一旦追跡は中断です。申し訳ありません』
「いや、シトュウさんが謝る事は何にもねえよ。でも、そうか・・・・・・」
影人はシトュウにそう言うと、悔しげな顔を浮かべた。影人の雰囲気から何かを悟ったのか、レイゼロールとシェルディアは厳しい顔になり、零無は「ふむ」と何かを考え込んでいた。
(油断したつもりはなかった。条件もこっちが圧倒的に有利だった。だが、フェルフィズの奴には逃げられた。・・・・・・不甲斐ないぜ)
最初から『影闇の城』を展開するなり、『終焉』を使って殺す気でいけばよかった。シェルディアやレイゼロールがいたので、少しだけ気が緩んでいたかもしれない。影人はそう自分を分析すると、己を責めた。
(・・・・・・今回は俺の負けだ。だけど、次は俺が勝つぜ。待ってやがれ。必ずまたお前を見つけてやる・・・・・・!)
影人はそう誓いを立てるとギュッと拳を握った。
――こうして、フェルフィズとの戦いはフェルフィズが影人たちから逃げ切ったという形で幕を下ろした。




