第1562話 忌神との戦い2(3)
「心外ですねえ。これはそもそも私が造った物ですよ。正当なる所有者は私だ」
フェルフィズがどこか狂気的な笑みを浮かべ、両手で大鎌を持ち構える。そして、フェルフィズは言葉を続けた。
「さて、私の手には私の最高傑作が、全てを平等に殺す武器がある。さあ、これで対等です。あなた達全員、死の奈落へと落としてあげましょう!」
フェルフィズが叫ぶと、フェルフィズの周囲に小さな魔法陣が複数出現し、そこから小さな火球がいくつか放たれた。恐らく、これも魔術だろう。
「ははっ! さあ、死を晒しなさい!」
同時にフェルフィズも一歩を刻み1番近い影人の方へと近づいて来る。火球とフェルフィズどちらにも意識を割かねばならないその攻撃は、普通ならば脅威だ。しかも、フェルフィズの武器が全てを殺す大鎌ならば尚のこと。
だが、
「はっ、当たるかよそんな攻撃」
残念ながらというべきか。影人は、いやフェルフィズ襲撃に参加した者は誰1人普通ではなかった。影人は何でもないようにその火球を避けると、逆にフェルフィズへ肉薄した。
「っ!? そう来ますか! ですが、それは――!」
悪手。フェルフィズはそう言葉を紡ごうとして、自身の名を冠した大鎌を振るおうとした。しかし、影人は大鎌が振るわれる前よりも速く、フェルフィズの腹部に右の蹴りを放った。
「がっ!?」
「・・・・・・そんな大振りでトロい攻撃あくびが出るぜ。もう1度言ってやろうか。当たるかよ、そんな攻撃」
フェルフィズがその顔を苦悶の色に染める。影人は冷たい声でそう言うと、フェルフィズを蹴り飛ばした。フェルフィズは大鎌を持ったままボロ雑巾のように飛ばされて行った。
「確かに、お前がその大鎌を持っている事には驚いた。だが・・・・・・それだけだ」
蹴り飛ばしたフェルフィズを見下ろしながら、影人はつまらなさそうな顔を浮かべる。不死だろうが何だろうが全てを殺す「フェルフィズの大鎌」は確かに脅威だ。影人はもちろん、シェルディアやレイゼロールも油断は出来ない。
しかし、対処法としては単純明快。攻撃に当たらなければいいだけだ。そして、フェルフィズと影人ではその速さの次元が違う。速さの次元が違えば、基本的に攻撃には当たらない。かつて影人が零無に『終焉』の闇を当てられなかったのと同じように。
それに加えて、影人は何度も「フェルフィズの大鎌」を相手にした事がある。しかも、かつて大鎌を扱っていた壮司はフェルフィズよりももっと速かったし、鎌捌きも壮司の方が上だった。以上の理由から、影人は「フェルフィズの大鎌」に対しての対策が出来ていた。
「ゲホッゲホッ! ああくそ・・・・・・流石に化け物ですね、スプリガンは・・・・・・」
影人の蹴りによって内臓にダメージを負ったためだろう。フェルフィズは吐血した。そして、左手を腹部に当て自己治癒力を増進させる魔術を使用した。正直大怪我なので、すぐには治らないが気休めにはなるだろう。フェルフィズはそう考えた。
「おい影人。もういいだろう。さっさと我にそいつを殺させろ」
「本気で殺る気かよ? 別にまあ、お前を止めるつもりはねえが・・・・・・」
痺れを切らしたようにそんな事を言ってきたレイゼロールに、影人はそう言葉を返す。すると、シェルディアがこんな言葉を挟んで来た。
「最終的に殺すのはいいけど、すぐにはもったいないわ。有名な狂神にして忌神が生きていたのだもの。面白い話もいっぱいあるだろうし聞きたいわ。だから、今は捕縛しましょう。ねえ影人、あなたの『世界端現』の鎖でフェルフィズを縛って」
「おいシェルディア、何を勝手な事を・・・・・・」
「嬢ちゃんらしい理由だな。だがまあ、いいぜ」
影人は苦笑を浮かべると、倒れているフェルフィズに右手を向けた。
「『世界端現』。影闇の鎖よ、出でて我が意に従え」
影人がそう唱えると、虚空から闇色の鎖が出現した。純粋な力以外では壊せぬ何者をも縛る鎖だ。一部の例外以外、捕えられた時点でその者は拘束から抜け出せない。まあ、今までこの鎖を使用した相手は全員例外だったので、未だに完全に対象を捕らえたという実績はないという皮肉があるのだが。
影闇の鎖がフェルフィズへと向かう。だが、フェルフィズはボソリと言葉を唱えていた。
「ゆ、『行方の指輪』よ・・・・・・」
影闇の鎖がフェルフィズを捕らえようとする。しかし、ほんの刹那の差でフェルフィズは黒い粒子となってその場から消えた。




