第1560話 忌神との戦い2(1)
「ふぅ・・・・・・スッキリしたぜ。やっと、てめえのムカつく顔を殴れたからな」
フェルフィズを右拳で殴り飛ばした影人は、小さな笑みを浮かべそう言った。
「おー、よく飛んだな。あれは頬骨砕けて歯も何本か逝ってそうだ。ははっ、愉快愉快」
「ふふっ、余裕ぶっていた者が泡を食う光景は面白いわね。それが黒幕気取りの者とあれば余計に」
「ふん・・・・・・無様だな、フェルフィズ」
その様子を見ていた零無、シェルディア、レイゼロールがそんな感想を漏らした。
「ぐっ・・・・・・あ・・・・・・」
一方、影人に殴り飛ばされたフェルフィズは痛みに朦朧としながら口の中に異物感を感じ、それを吐き出した。すると、血と共に何本かの歯が地面に落ちた。全身も受け身を取れなかったため鈍く痛んだ。痛いと感じるのはいったいいつぶりだろうか。
「な、なぜ・・・・・・私の場所が・・・・・・」
フェルフィズはよろよろと何とか立ち上がると、理解できないといった顔を浮かべた。自分は今殴られるまで、誰にも触れられていない。発信機のようなものをつけるのは不可能だ。それに加えて、万が一転移の言葉から転移先を特定されないように、転移先もランダムに設定した。どうしてこんなに早く自分を追って来る事が出来たのか。フェルフィズには見当もつかなかった。
「わざわざお前に教えるわけねえだろ。絶望を与えるっていう意味で教える選択肢もあるにはあるが、今回は教えない方が圧倒的に利点があるからな」
フェルフィズの呟きを聞いた影人はしかし、その答えを与えはしなかった。ここで得意げにその方法を教えるのは不注意極まりない。三流のする事だ。影人は一応、自分がそれなりの暗躍者であるという自覚はあるので(正直どうかと思うが)、その選択をしたのだった。そして、影人がその選択をしたのはフェルフィズを警戒しての事だった。
「あ・・・・・・案外に頭が回りますね・・・・・・い、意外です・・・・・・私に騙された、お人好しのバカだと・・・・・・思っていたのですが・・・・・・」
大きく腫れた左頬のために左目を細めながらフェルフィズはそんな言葉を述べた。フェルフィズは小さな笑みを浮かべていたが、その笑みは強がりの笑みにしか見えなかった。
「まだそんな口利ける余裕があったか。存外にタフじゃねえか。いいぜ、ならてめえがどこまでそんな口叩けるか試してやるよ」
「ま、まるでチンピラのよう・・・・ですね・・・・・・どうやら・・・・・・品性はないようだ・・・・・・」
フェルフィズは何とか影人にそう言葉を返すと、左手で自分の腫れた頬に触れた。すると、触れた箇所がボゥと暖かく光った。
「っ、何をしやがった?」
「わざわざ、あなたに教える意味がありますか? ですが、私は優しいので教えてあげましょう。先ほどと同じ魔術ですよ。自然治癒の効果を高めるね。神は人間とは違い不死なので自然治癒力が高い。それを更に高めたのでほら、この通り腫れもかなり引いたでしょう」
ほとんど元通りの滑舌に戻ったフェルフィズが影人にそう説明する。フェルフィズの説明を聞いた影人は「なるほどな」と呟いた。
「だが、お前が優しいってのは嘘だろ。今の説明も時間稼ぎが目的だろ」
「気づいていましたか。本当に、頭の回転だけはそれなりですね。・・・・・・そして、少し腹が立ちますね。時間稼ぎをされても別に問題はないとあなたが、いやあなた達が思っている事が」
フェルフィズは影人とその背後にいたレイゼロールやシェルディアなどを睨んだ。影人がフェルフィズの思惑を言い当てたように、フェルフィズも影人たちの考えを見透かしていた。




