第1559話 忌神との戦い1(4)
「人形にしては中々楽しかったわね」
影人が人形を無力化すると、シェルディアの声が聞こえてきた。見てみると、悲劇の人形は血の武器によって全身を貫かれ、その頭部も血の槍に貫かれていた。概念の力を用いずに、武器だけであの人形を無力化するとはさすがはシェルディアといったところだ。
(さて、レイゼロールの奴は・・・・・・)
影人はレイゼロールがいる方へと視線を向ける。恐らく、残っていたレイゼロールはフェルフィズと対峙しているはずだ。まあ、影人とシェルディアが人形と戦っていた時間は長くはないので、あまり動きはないだろうが。影人はそんな事を思っていた。
「・・・・・・お前のご自慢の人形たちは壊れたようだぞ。お前がどこからか呼び出した雑魚の人形たちも品切れと見える。つまり、お前は終わりだ」
レイゼロールは少し離れた位置にいるフェルフィズにそんな言葉を投げかけた。レイゼロールとフェルフィズの間には何百体もの人形の残骸が散らばっていた。
「やれやれ、困りましたね。私の可愛い作品たちが無惨な姿に・・・・・・そして、あなたの指摘通り私は絶体絶命のようだ」
フェルフィズは言葉とは裏腹に戯けた顔で軽く首を振った。そして、こう言葉を続けた。
「ですが、私は別にあなた達化け物に勝たなくともよいのです。少しの時間させ稼げればよかった。つまりは・・・・・・私の勝ちですよ」
フェルフィズがどこからか指輪を取り出しそれを自身の右手に嵌めた。そして、フェルフィズは神器を起動させる言葉を唱えた。
「『行方の指輪』よ、我の行く先を示せ。我の行く先は・・・・・・」
「っ、逃げる気か・・・・! だが、させん・・・・・・!」
その事を直感したレイゼロールが、神速の速度を以てフェルフィズを捕らえようとした。この場から速度を気にせずに逃げられるとすれば転移だけだが、転移する前の僅かな時間で捕らえればいいだけだ。レイゼロールはそう考えた。影人とシェルディアも同じ事を考え、フェルフィズに向かって一瞬でその距離を詰めようとする。
「「「っ!?」」」
だが、フェルフィズから2メートル程の場所に足を踏み入れた瞬間、突然フェルフィズを中心に魔法陣が浮かび上がり、フェルフィズを炎が囲んだ。その炎に一瞬3人の足が止まる。そして、その一瞬が決定的となった。
「遠く離れた何処かに。言ったでしょう。僅かな時間さえ稼げればと。私が稼ぎたかったのは、この魔術を仕込む時間ですよ」
「っ? 魔術・・・・・・?」
炎を隔てた先から聞こえて来たフェルフィズの言葉を聞いた影人は、「魔術」という聞き慣れない言葉についそう反応してしまった。そして、炎の先にいたフェルフィズは黒い粒子と化しその場から消失した。それに伴い炎も消えた。
「ちっ、逃したか・・・・・・」
「彼はあの炎を魔術と言っていたわね。意外だったわ。まさか、彼が魔術を修めていたとは・・・・・・」
レイゼロールが舌打ちをし、シェルディアはそんな言葉を漏らした。
「っ、嬢ちゃん。こんな時に聞くのもあれなんだが・・・・・・魔術ってなんだ? 魔法とかと同じものか?」
「少し違うわね。魔術というのは、一部の人間たちが時たまにこちらの世界に流入してきた【あちら側の者】に対抗するために開発した、対抗手段の事よ。精神力や生命力を使って、現象を世界に現す技術とでも言えばいいかしら。まあ、名称は地域によって異なるけど。それらを扱う者は魔術師や魔女、巫女や神官など様々な名前で呼ばれるわ。確か、元々キベリアは人間時代そちら方面の人間だったはずよ。ねえ、レイゼロール?」
「ああ。キベリアは人間時代その養成学校のような所に通っていた。だが、そんな話は今どうでもいいだろう。問題は逃げたフェルフィズをどうにかして捕捉しなければならないという事だ」
シェルディアに話を振られたレイゼロールは短くそう答えると、至極もっともな言葉を口にした。
「凄えな・・・・・・この世界にはどうやらまだまだ俺が知らない事があるみたいだな。世界ってやつは、まだまだ未知だぜ・・・・・・」
シェルディアの話を聞いた影人は、ワクワクしたような顔でそんな感想を漏らした。絶賛厨二病の前髪野郎からすれば、シェルディアの話は非常に興味深かった。またシェルディアやキベリアから詳しい話を聞こうと影人は思った。
「さて、じゃあフェルフィズを追うか。俺、まだあいつぶん殴ってないしな」
「だから、奴をどう捕捉するかが問題だと言っているのだ。お前は奴の居場所が分かるのか?」
影人の言葉にレイゼロールが呆れたような顔でそう聞いた。影人はかぶりを振りながら、しかし小さな笑み浮かべた。
「俺は分からない。だが、フェルフィズの場所は分かるぜ。ここをどうやって知ったか、どうやって来たか忘れたか?」
「っ・・・・・・」
「ああ、そういえば・・・・・・ふふっ、彼女が味方なのは本当随分と楽だわ」
影人の言葉の意味に気づいたレイゼロールとシェルディア。影人は変わらず小さな笑みを浮かべたまま、こう言った。
「あいつはもう俺たちから逃げられねえよ。どこに行こうとな」
「ふぅ、全く野蛮人のせいで気分が悪い」
転移場所をランダムに設定したため、どこかの森の中に転移したフェルフィズは軽く息を吐いた。大事な物は基本的に神器で亜空間に仕舞っているので問題はないといえば問題はないが、それでも損失を被った事に変わりはない。フェルフィズは少し苛立っていた。
(しかし、なぜ私の居場所がバレたのですかね・・・・・・あの女も私のアジトは知らなかったはずですが・・・・・・)
フェルフィズがその事を不思議に思っていると、突然後ろからこんな声が聞こえてきた。
「――よう、逃げたつもりかよクズ野郎」
「っ・・・・・・!?」
フェルフィズが驚き反射的に後ろ振り返る。すると次の瞬間、鉄拳がフェルフィズの頬を穿った。
「っ〜!?」
フェルフィズは頬に激痛を感じながら、十数メートルほど殴り飛ばされた。




