第1557話 忌神との戦い1(2)
「本当に信じられない。野蛮もいいところです。様式美というものを何1つ理解していない。何をどう考えれば屋敷を木っ端微塵にしようと思えるのか・・・・・・あなた達のおかげで、いくつもの私の作品が潰れましたよ」
「なら重畳だ。お前を不愉快にさせるのは気分がいいからな。ああ後、そういう苛ついてる顔似合ってるぜ。小物みたいでな」
恨み言を吐くフェルフィズに影人は笑みを浮かべる。影人にそう言われたフェルフィズはその顔を不快げに歪ませた。
「言ってくれますね。私に刺された時とは大違いだ。・・・・・・ですがまあ、いいでしょう。またあなたの苦しむ顔を見ればいいだけですからね」
フェルフィズは軽薄な笑みを浮かべると、パチンと右手を鳴らした。すると、スゥとフェルフィズの後ろから人形が現れた。まるで今まで透明化していたかのようだ。その人形も身長は2メートルほどで、色は同じ。こちらは悲しんでいる仮面――喜劇と悲劇の仮面の悲劇の仮面のような――を被っていた。
「喜劇の仮面人形と悲劇の仮面人形・・・・・・私の自信作の人形たちです。私を守る可愛い子供たちですよ」
自身の作品だから子供と形容したのだろう。フェルフィズは自分の背後に立つ仮面を被った2体の人形をそう説明した。
「ふん・・・・・・意外だな。そんな人形を頼りに我たち3人と戦う気か。愚かと言う他ないな」
「ははっ、いくら神器を使ってもお前は表立って戦闘するタイプじゃないだろ。やけにでもなったか? それとも死ぬ気か?」
レイゼロールと零無がそれぞれそんな言葉をフェルフィズに送る。特に、フェルフィズと付き合いの長い零無の言葉は、戦えばフェルフィズが必ず負けるという事を、影人たちに暗に教えてくれた。
「別にやけになったわけでも、死ぬ気になったわけではありませんよ。私にはまだ目的がありますからね。それを果たすまでは死ぬつもりはありません」
(っ、目的か・・・・・・正直気になるが、馬鹿正直に聞いても答えてはくれないだろうな・・・・・・)
フェルフィズの言葉を聞いた影人はその辺りの事が気になったが、すぐにその好奇心を心の奥底に仕舞い込んだ。
「ああ、後はあなたにも言葉を返しておきましょうレイゼロール。私は別に自分を賢者とは思っていませんが・・・・・・自分を愚者だとも思っていませんよ」
「「!」」
フェルフィズが狂気を宿した笑みを浮かべると、後ろの2体の人形が突然動き出した。喜劇の仮面人形は右腕を動かし、その前腕部の側面から刃渡り40センチほどの少し湾曲した刃を生やす。悲劇の仮面人形は左腕を動かし、喜劇の仮面人形と同位置から同じ刃を生やした。
「さあ、行きなさい。あなた達の力を存分に見せるのです」
「「!」」
フェルフィズの指令を受けた人形たちが地を蹴り影人たちの方へと向かって来る。その速度は凄まじい。神速の域には至っていないが、それに近い速度ではあった。
「・・・・・・いいぜ。てめえの人形遊びに少し付き合ってやるよ。ご自慢の人形を壊してやる」
影人は少し口角を上げると、自身の体に闇を纏わせ身体能力を強化し『加速』と目の強化も施した。そして、両手に闇色のナイフを創造すると、まずは喜劇の人形の方に向かって地を蹴った。
「レイゼロール、フェルフィズ本体はあなたにあげるわ。まあ、少しの間だけだけど」
シェルディアもレイゼロールにそう言うと、悲劇の仮面人形の方に向かった。
「ふん・・・・・・ならば、まずは奴を泣き面にでもするか」
レイゼロールはそう呟くと、自身の肉体に影人同様の様々な強化の力を施し、フェルフィズに向かって一歩を踏み出した。




