第1555話 忌神との再会(5)
『ああ、そうか! 今わかりましたよ! あの時空の歪みが何だったのか! あなたの姿はあの時と全く変わっていない! あなたはどういうわけか未来からあの時代に来ていたのですね! だから、「帰還の短剣」はあなたを未来へと帰した! なるほどなるほど!』
そして、フェルフィズはその事実にも辿り着いた。フェルフィズはようやく少し落ち着いた様子になると、影人にこう言ってきた。
『しかし、あなたが生きて私と再会するとは全く生とは何が起きるか分からない。ああ、愉快です。やはり、生とはこういうものでなくては!』
「てめえの人生観なんざどうでもいいんだよ。俺がここに来た理由は1つ。お前をぶん殴りに来たんだよ。あの時の借りを返しにな。もう少ししたら殴りに行ってやるから、首洗って待ってやがれ」
『それは実に楽しみですね。ですが、殴られたくはないので・・・・・・足止めをさせていただきます』
フェルフィズはそう言うと、パチンと右手を鳴らした。しばらくの間は何も起こらなかった。
だが、カタカタと何かが動くような音がどこからか聞こえて来た。
「っ・・・・・・?」
「これは・・・・・・」
「何の音?」
その音は影人、レイゼロール、シェルディアの全員に聞こえていた。全員が離れた場所にいるはずなのにだ。
(扉の外からか・・・・・・?)
影人に限って言えば、音は影人がこの部屋に入って来たドアの外から聞こえて来た。影人が警戒した視線をドアに向ける。すると、ドアがキィと音を立て半開きになり、
「・・・・・・」
そこから顔のない人形が頭を覗かせた。その登場の仕方は人に恐怖感を抱かせるものだった。
「っ、人形・・・・・・」
影人はその人形に見覚えがあった。先ほど部屋を探索していた時に保管されていた人形だ。人形は影人の姿を見ると、いきなり襲いかかって来た。
「ホラゲーかよ・・・・・・! だが――」
影人は襲い掛かってくる人形に対し、右手に闇を纏わせた。そして、その右手を拳にすると、人形の頭を殴って破壊した。
「悪いな。俺は怯えて逃げる一般人じゃねえんだ」
頭を砕かれた人形が地面に崩れ落ちる。影人はその残骸を見てそう言葉を送った。影人からは見えないが、レイゼロールとシェルディアも影人同様に人形を蹴散らしていた。
「「「・・・・・・」」」
しかし、人形は1体ではなかった。人形たちは続々と廊下から現れ部屋の中に入って来た。
「ちっ、面倒くせえな・・・・・・」
影人はそう呟くと、持っていたランタンを人形たちに投げつけた。そして、転移の力を使用した。
(この屋敷の中は迷宮。フェルフィズに気づかれた今、それを馬鹿正直に攻略する意味はねえ。だったら・・・・・・)
影人の体を黒い光が包む(後は零無も)。目に映る範囲での短距離転移ではなく、シトュウから与えられたもっと制限の緩い転移だ。人形たちは影人に襲い掛かって来るが、その前に影人の姿はその場から消えた。
(さて、最悪嬢ちゃんとレイゼロールの奴を巻き込んじまうが・・・・・・あの2人は不死だしな。まあ、後で謝れば許してくれるだろ)
影人が転移した先はフェルフィズ邸の外だった。影人は庭に立ち正面からフェルフィズ邸を見つめると、心の中でそう呟き右手に闇色の拳銃を創造した。
「あら、あなたも外に出ていたのね影人。よかったわ。これで心置きなく出来るから」
「・・・・・・ふん。どうやら、考えている事は同じのようだな」
すると、そのタイミングでシェルディアとレイゼロールが影人から少し離れた場所に現れた。どうやら2人も転移の力を使用したようだ。
「っ、嬢ちゃん、レイゼロール・・・・・・ああ、そうみたいだな。どうやら、全員思考パターンは似てるらしい」
2人の言葉を聞いた影人は、2人がやろうとしている事と自分がやろうとしている事が一致しているようだと理解した。そして、軽く笑った。
「みたいね。別に私がやるから大丈夫よ」
「我がやる」
「いや、俺が・・・・・・じゃあ、せっかくだから全員でやるか。でも、2人ともやり過ぎるなよ」
「大丈夫よ。加減はするから」
「誰に言っている」
影人の提案に乗るように、シェルディアとレイゼロールが返事をしてくる。そして、シェルディアは右手の爪を伸ばしそこに少量の影を纏わせ、レイゼロールは左手を屋敷に向けた。
「闇よ、1条の流星と化せ」
「ふふっ」
「塵になれ」
影人が一撃を強化する言葉を唱え、拳銃を屋敷に向け引き金を引く。すると、闇の光線が放たれた。シェルディアは屋敷に全てを切り裂く爪撃を放ち、レイゼロールは影人同様、闇の光線を放った。
その結果、
――ドゴォォォォォォォォォォォォン
屋敷は凄まじい音を立て跡形もなく壊れた。




