第1552話 忌神との再会(2)
「・・・・・・・・・・・・は?」
影人は意味が分からないといった顔で思わずそんな声を漏らした。何だ。何が起きている。自分は家の中にあるドアを開けたはずだ。だというのに、なぜ外に。
「っ!」
影人は振り返り、自分が出て来た建物を見つめた。建物は一軒家の大きな家だ。明らかに影人が入ったフェルフィズ邸とは違う。
「何がどうなってるんだよ・・・・・・!」
混乱しながらも影人は周囲に視線を向ける。周囲には大体等間隔で家が立っていた。どこかの田舎のような光景だ。もちろん、フェルフィズ邸周囲の光景とも違う。何より、ここは平地だった。
『へえ、面白くなってきたじゃねえか。影人、取り敢えず戻って色々調べてみろよ。状況の確認だ』
「ふぅー・・・・・・ああ、そうだな。ここで取り乱しても、いい事は何もない」
イヴにそう言われた影人は、軽く息を吐いて自身を落ち着かせた。理解不能で取り乱すのは自分の、特にスプリガンの柄ではない。スプリガンは基本的にクールなキャラだからだ。
「・・・・・・元のドアを辿れば地下室、更には俺が侵入して来た場所に戻る」
取り敢えず元来たルートを辿った影人は、脱出できる事は確認した。どうやら閉じ込める意図のようなものはないようだ。まあ、あったとしても影人には転移があるので問題はないが。
「ふむ、ドアを境として空間が歪んでるな。恐らくは、フェルフィズの道具によるものだろうぜ」
今まで黙りながら影人に着いてきていた零無が顎に軽く手を当てながらそんな言葉を呟く。零無にしては珍しく静かだったのは、零無も影人同様にフェルフィズ邸を色々と観察していたからだった。
「だから全く違う場所に出たって事か・・・・・・って事は、これはフェルフィズの奴の罠か」
「そうとも限らないな。侵入者用の罠である側面もあるだろうが、あいつの性格上、これはどちらかというとキャパシティの確保の側面が強いように思える。つまり、単純に作った物を保管して手短に取り出す方法だな。あいつは何千年と生きその間に作った道具の数も尋常ではないだろうから」
影人の呟きに半分同意しながらも、フェルフィズと付き合いのある零無はそんな推理を述べた。
「どっちにしても侵入者にとって罠である事には変わりねえな・・・・・・って事は、嬢ちゃんやレイゼロールも俺と同じような状況になってる可能性が高いな」
保管と罠を兼ねているなら地下室だけが違う空間と繋がっている可能性は低い。レイゼロールやシェルディアが侵入した1階もドアが違う空間に繋がっていると考えるのが自然だ。影人は軽く舌打ちをした。
「ちっ、まるで迷宮だな。不幸中の幸いなのは、まだフェルフィズに侵入がバレてないかもしれないって事だけか。これは多分意図的な罠じゃなくて、常態的な罠だろうからな」
零無の推理を無意識的に信じた影人は金の瞳で廊下にある計6つのドアを見渡した。
「零無。このドアのどれかが元のフェルフィズ邸に繋がってると思うか?」
「ああ。それは間違いない。さっきも言ったように、この仕掛けは保管の意味が主だろう。なら、絶対にあいつは元の屋敷と空間を繋げている場所を作っているはずだ」
「よし・・・・・・ならまだ襲撃計画は失敗してねえな」
フェルフィズと付き合いの長い零無がそう言っているなら、多少は説得力がある。影人は今度は零無の言葉を意識的に信じると、今の自分から見て左側にあった1番近いドアに近づきドアを開けた。細かく言うと、影人は空間が歪んでいたドアから1番近い左側のドアを開けた。
「・・・・・・外れか」
中は6畳ほどの小部屋で、マネキンが複数体置かれていた。中にドアはないので、ここを調べる価値はないだろう。影人はドアを閉めて、今度は対面にある右側のドアを開けた。
「・・・・・・ここも外れか」
こちらも6畳ほどの小部屋で、中にはラックが複数置かれ小瓶がずらりと保管されていた。小瓶にはラベルが貼られており、影人の知らない文字が書かれていた。理科室の薬品棚のようだなと影人は思った。ここもドアはなく行き止まりだ。
「残るはここだけか・・・・・・」
最初に入って来た地下室側、今の影人から見て右側の1番奥(地下室側から見れば1番手前だが)のドアの前に立った影人はそう呟いた。あれから3つのドアを開けたが、いずれも何か薬品やら人形やら武器やらの保管庫で行き止まりだった。




