第1551話 忌神との再会(1)
「・・・・・・」
地下室のドアを開けてフェルフィズ邸へと侵入した影人は、警戒感を強め入って来たドアを閉めた。キィと小さな音を立てて、ドアが外と内の境界と化す。
「さて、ここが伏魔殿の中か・・・・・・」
ポツリと小さな声でそう呟きながら、影人(と着いてきた零無)は地下室の中を見回した。地下室で日の光が当たらないという事と電気もついていないという事もあり、地下室の中は薄暗い。だが、見えないというほどではなかった。
(広いな・・・・・・後はここは物置兼作業場って感じか・・・・・・)
正確に何畳という事は分からないが、かなり広い。部屋は正方形で、影人から左半分にはラックや棚があり、様々な物が保管されていた。それは剣や斧、槍、鎧に兜などといった武具類に、指輪やイヤリング、ペンダントなどといった装飾類、コートや帽子、靴などといった着用品と多岐に渡っていた。
そして、影人から見て右半分。そこには炉や金床、空っぽのバケツ、ハンマーが数種類あり、鍛冶場と称してもいい場所になっていた。
(そう言えば、あいつの昔の家にも鍛冶場はあったな・・・・・・まあ、あの時とは違ってこっちは随分と立派だが)
あの時フェルフィズは物作りが趣味と言っていたが、どうやらそれだけは本当の事らしい。まあ、フェルフィズは物作りの神らしいのでやはり嘘ではないだろう。
「ああ、そうだ。嬢ちゃんの透明化解除しねえと」
影人は離れた場所にいるシェルディアの透明化と自分の透明化を解除した。いずれシェルディアやレイゼロールたちとは集合する事になるので、その時互いに透明だと不便だからだ。
『油売ってる暇あんのかよ。侵入はスピードが命だぜ。さっさとフェルフィズの奴見つけろよ』
影人が地下室を少し観察していると、イヴがそんな事を言って来た。最もなその指摘に影人は「そうだな、悪い」と言葉を返した。
「まずは地下室から出て上に向かうか・・・・・・」
影人は歩いて入って来たドアと反対側にあったドアに向かうと、慎重にドアノブを回した。フェルフィズに出会うまでは出来るだけスニーキングミッションだ。心はメタルなギアのスネ◯クである。実はちょっとこういう事をしたいと思っていた厨二前髪野郎は、少しドキドキワクワクとしていた。こんな時でも少年心は忘れないこいつは、やはりどこかおかしいが、一周回って実は大した奴なのかもしれない。
「っ、マジか・・・・・・」
ドアを開いた影人は現れた光景を見てついそう言葉を漏らした。てっきり、影人は地下室を出ればすぐに1階へと続く階段があると思っていたのだが、地下室の外には廊下が続いていた。そして、廊下の両側にはいくつものドアがあった。
「どんだけ広い地下室なんだよ・・・・・・ちっ、フェルフィズの野郎、嬢ちゃんと同じで金持ちかよ」
ざっと見ただけでも左に3つ右に3つドアがある。計6個の部屋だ。本来ならこの部屋も全て見てフェルフィズがいるかいないかを確かめた方がよいのだが、朝から地下室にフェルフィズがいるとは考えにくい。朝であればいる可能性が高いのは、寝室かリビングだろう。ゆえに、影人は時間のロスをなくすため正面にあるドアを目指した。
(さて、今度こそ・・・・・・)
構造的にこのドアが1階へと続くドアだと考えた影人がまたドアノブを静かに回す。すぐに階段が見える。そう思った影人だが――
目の前に飛び込んで来た光景は、高い山々が見える自然の光景だった。




