第1546話 忌神への反撃(4)
「話は纏ったのかい?」
「ああ、取り敢えずはな。シトュウさんはフェルフィズの居場所を教えてくれるってよ」
そう聞いて来た零無に影人は頷くと、腰掛けていたベッドから立ち上がりテーブルの上に置いていたペンデュラムを手に取った。
『大体話は聞いてたぜ。別にあいつらにわざわざ聞かなくても、1人でカチコミした方が早いし楽しいじゃねえか。日和ってるのかお前?』
「別に日和ってるとかじゃねえよ。ただ、最近怒られまくりだからそろそろ飽きたってだけだ」
ペンデュラムを取るとイヴが語りかけてきた。イヴにそう言われた影人はフッと気色の悪い笑みを浮かべた。格好をつけているつもりなのが哀れである。やはり、所詮は前髪野郎という事か。
『何格好つけてやがる。単純に怒られるの怖いだけだろ』
「ち、ちげえよ。別にそんなんじゃねえし。そんな事よりも、まずは嬢ちゃんの所に行って話しないとな!」
イヴの指摘に前髪野郎はドキリとしたような顔を浮かべたが、誤魔化すようにそう言うと、ペンデュラムをポケットに突っ込み玄関へと向かった。
「なるほど。話は分かったわ。彼の忌神がどういった者なのか気になるし、私も同行させてもらうわ。協力するとも言ったしね」
数分後。隣のシェルディア宅を訪れた影人は、シェルディアにフェルフィズ討伐に自分が赴こうとしている事を話した。その話を聞いたシェルディアは、紅茶のカップを置くとそう答えを述べた。
「予想はしてたけど・・・・・・やっぱりか。別に嬢ちゃんの強さは知ってるから来るなとは言わないが・・・・・・危ないのは危ないぜ」
シェルディアの対面に座っていた影人は、その答えを聞いてそんな言葉を返した。
「ああ、ここは『湯治』だろう。それでこっちは・・・・・・」
「!」
ちなみに、当然の如く影人について来た零無はぬいぐるみが解いていたクロスワードパズルを見ながらアドバイスをしていた。ぬいぐるみは「なるほど!」といった感じで頷き、握っていたペンを奔らせた。
「どちらかと言うとそっちの方がワクワクするわ。それに、それはあなたも同じでしょう? 私やレイゼロールなどとは違って、あなたは常に不死というわけではないのだし」
「おおう、流石何千年も生きる不死者。俺たちとはその辺りの感覚が違うな・・・・・・まあ、危ないって事については確かにお互い様だな」
シェルディアの指摘に頷いた影人は、出されていた水を飲み喉を潤すとこう言葉を続けた。
「じゃ、嬢ちゃんは俺と一緒にフェルフィズの奴ぶん殴るって事で。後、話しておかないと文句言われそうな奴はソレイユとレイゼロールと・・・・・・」
「あらあら、きっと片手や両手の指じゃ足りないわよ」
影人が次に誰に話すかといった感じで指を折る。その様子を見ていたシェルディアは小さく笑っていた。
「でも、襲撃に大人数は連れて行けないから、今回は限られた人数で行くべきね。フェルフィズの力は未知数だから、その限られた者たちの戦闘能力も高い者たちが望ましい」
「だよな。加えて死ぬ可能性が極端に低い奴となると・・・・・・俺と嬢ちゃん、それにレイゼロールと闇人くらいか。だが、闇人の奴らは前回が例外だっただけだし、現実的なのは俺と嬢ちゃんとレイゼロールの3人って感じだな」
「そうね、私もそう思うわ。レイゼロールも話を聞けば自分も行くと言うでしょうし」
シェルディアが頷き同意の意を示す。シェルディアの同意を得た影人は「よし、じゃあ取り敢えずそれで」と首肯した。
「となると、次はレイゼロールに連絡取らないとな。ソレイユの奴にはその後に事情話すか」
「なら、レイゼロールへの連絡は私がしましょう。最近何かと相互間で連絡を取る必要があるから、レイゼロールの血を染み込ませた便箋があるの。多分、すぐに来ると思うわ」
シェルディアはそう言うと、自分の影の中からマジックアイテムである便箋と普通のペンを取り出した。そして、便箋に「影人があなたに話があるから、影人の気配のある場所まで転移してきて」と記す。必要な事を記したシェルディアは影からライターを取り出すとそれを燃やした。
「・・・・・・それ、火災報知器鳴らない?」
「これもマジックアイテムで、熱とかは発生しないから大丈夫よ。対象にただ燃やすという事象を与えているだけだから」
「うわー、便利アイテム・・・・・・」
そうこう言っている内に、便箋は完全に燃え散った。
そして数分後。シェルディア宅にレイゼロールが転移してきたのだった。




