第1543話 忌神への反撃(1)
「――さて、ある程度の準備は整いましたね」
5月3日金曜日、夜も更けた頃。自身が所有する家の書斎にいた男――忌神フェルフィズは、テーブルの上に並べられていた様々な小物や本を見つめながらそう呟いた。机に置かれている小物は謎の液体の入った瓶が複数個、複雑な紋様が刀身に刻まれたナイフといった物だった。
「取り敢えず、彼女が創った杭のような物の擬似代用品は不完全ではありますが作る事が出来た・・・・・・ですが、問題は向こう側に渡る方法なんですよね・・・・・・」
フェルフィズは少し困ったような顔を浮かべた。零無が自分に手渡した、次元の境界を不安定にするクリスタルの棒状のような物は既にフェルフィズの手元にはない。あれは地面に刺して呪文を唱えた瞬間に砕け散った。この世界とあちら側の境界を完全に壊すのにはあれが必要だというのに。もちろんストックはないし、零無にまたあの道具を創ってもらう事は不可能だ。
だから、フェルフィズはその擬似代用品を作った。一応、あの道具を使う前にデータは取っておいたのだ。そのデータを参考にフェルフィズが作ったのが、テーブルの上に置かれたナイフだ。刀身に刻まれた紋様にその効果が含まれている。フェルフィズは物作りの神。その権能は神力を必要としない特殊なものだ。フェルフィズという存在に依存しているといってもいい。ゆえに、フェルフィズは特殊な力を持ったナイフを作る事が出来た。
ただし、フェルフィズが強調しているように、あくまでこれは擬似的なものでしかなく代用品に過ぎない。効果の再現性は零無の作った道具には遠く及ばないだろう。
だが、それでも可能性はある。この世界に混沌と破壊をもたらす事が出来るなら試す価値が。どうせ、フェルフィズの享楽もとい暇つぶしだ。そのために試行錯誤を重ねる事を、フェルフィズは苦とは考えていなかった。
「・・・・・・まあ、もう少し色々方法を考えてみましょう。それに・・・・・・もしかしたら、アレが使えるかもしれませんからね」
フェルフィズがその薄い灰色の瞳を、書斎端に立て掛けられていた物に向ける。そこには布で巻かれてた棒状の物があった。しかし、ただの棒ではなく床に面している棒の先から鋭い刃が飛び出していた。
その刃の色は――闇の如く黒かった。
「――フェルフィズの奴がどこにいるかだって?」
5月4日土曜日、午後2時過ぎ。自宅の自分の部屋でベッドに腰掛けていた影人は、宙を漂う零無に対しそんな質問をした。影人の質問を受けた零無は軽く首を傾げた。
「ああ。気に掛かってた問題が色々と片付いたからな。そろそろ、本格的にあいつをぶん殴りに行こうと思ってよ。お前あいつとつるんでたんだろ。あいつが居そうな場所知らねえか?」
影人が続けてそんな言葉を述べる。魅恋と海公の事、影仁の事も取り敢えずは解決した。向こうの世界からの流入者の問題も復活した光導姫と守護者、そして影人やレイゼロールなどが対応している。残る問題は、元凶であるフェルフィズの討伐だけだ。ようやくその事に集中できる状況になったため、影人はこちらから打って出ようと考えていた。




