第1541話 再会、父よ(4)
「・・・・・・」
「・・・・・・」
数分後。影人と影仁は、先ほどの川沿いから少し離れた所にあったボロいテントの前で焚き火を囲んでいた。影仁から聞いた所によるとこのテントは影仁のものらしく、唯一といっていい携帯道具だと言っていた。
「・・・・・・衝撃も色々と聞きたい事もあると思う。だけど・・・・・・よかったよ。こうして、また父さんに会えて」
前髪の下の目でパチパチと音を立てる火を見つめながら、影人はそう言った。
「・・・・・・ああ、俺もだよ。お前や穂乃影、日奈美さんの事を考えない日はなかった。・・・・・・いやでも、正直たまには考えなかったかも。俺も色々あったからなぁ・・・・・・」
影仁が苦笑いを浮かべる。影仁の言葉を聞いた影人は「・・・・・・うん、そうだろうね」と小さく頷いた。
(約7年間だ。父さんは何の準備もなく1人で世界を放浪し続けた。その苦労はどれほどのものだっただろう。だけど、父さんはこうして俺の前にいる。一種の奇跡みたいなもんだ)
影人が内心でそんな事を考えていると、影仁がこんな事を言って来た。
「しかし・・・・・・びっくりしたぜ。久しぶりに会った息子は前髪が尋常じゃなく長くなってるし。影人、お前何でそんな前髪伸ばしてるんだ? それとも、今日本じゃそういう髪型が流行ってるのか?」
「この髪型が流行ったら流石に終わりだよ。・・・・・・これは俺なりの戒めみたいなもの・・・・・・だったって感じだ。今はまあ・・・・・・慣れ過ぎたからこのままの髪型にしてる」
「っ、そうか・・・・・・でも、うん。自分が気に入ってる髪型が1番だからな。似合ってると思うぜ」
影人の言葉のニュアンスから何かを感じ取った影仁は一瞬辛そうな顔を浮かべたが、すぐに笑みを浮かべるとそう言ってくれた。
「・・・・・・俺と別れた時、お前は10歳で7年経ったから今は17歳で今年中には18歳か。ああ本当に・・・・・・本当に大きくなったな」
成長した影人の姿を見て影仁はしみじみとした様子でそう呟いた。その目には涙が浮かんでいた。だが、意地からか影仁はその涙を溢す事はしなかった。
「・・・・・・まあ、時の経過の結果だよ」
「ははっ、何かお前らしい答えだな。出来れば、日奈美さんと穂乃影の様子も教えて欲しいし、他にももっとお前と話したい事はあるんだが・・・・・・今はそれよりもお前に聞かなきゃならない事があるからな」
影仁がその顔を真剣なものに変える。そして、影仁は影人にこう質問した。
「影人、お前は何で俺の居場所が分かった? どうやってここまで来た? ・・・・・・お前が俺の前に現れた理由は何なんだ?」
影仁からしてみれば当然の無視できない疑問。その疑問をぶつけられた影人が口を開く。
「・・・・・・俺もあれから色々とあってさ。ちょっと特別な奴らと知り合いになったんだ。父さんのいる場所とか、ここに俺がいる理由はそいつらの力を借りたからだ。悪いけど、今はこれくらいしか言えない。それで、もう1つの質問・・・・・・俺が父さんの前に現れた理由は、父さんにある事を伝えに来たからだよ」
影人が前髪の下の両目で影仁の目を見つめる。そして、影人はその伝えたい事を述べた。
「父さん、父さんに掛かった呪いはもう解けた。だから・・・・・・もう父さんは戻って来ていいんだ。俺たちの所に」
「なっ・・・・・・」
その言葉を聞いた影仁が驚いた顔になる。影仁はしばらく言葉を失っていたが、やがて震えた声でこう言葉を漏らした。
「ほ、本当・・・・・・なのか・・・・・・?」
「うん。証拠はないから見せられないけど・・・・・・本当だよ。色々あってあいつの、零無の封印が解けて、戦って・・・・・・最終的には一応、和解って形になるのかな。まあ、俺はそう思ってないけど。そういう事で、あいつに呪いを解除させた。だから、もう父さんを縛る呪いは消えてる」
信じられないといった顔を浮かべる影仁。影人は影仁に改めてその事実を伝えた。




