第1539話 再会、父よ(2)
「あなたを普通の人間に分類していいのかは甚だ疑問ですが・・・・・・事情は分かりました。要するに、あなたが長距離転移が出来るようになるか、私と相互方向からいつでも連絡出来るようになればいいのですね。ならば、両方をあなたに与えましょう」
シトュウはそう言うと、スッと右手の人差し指を影人の方へと向けた。すると、人差し指の先から透明の小さな光が出現した。その光はフワフワと影人の方へと近づいて来る。
そして、その光は影人の胸の中へと吸い込まれていった。
「っ・・・・・・? シ、シトュウさん。今のはいったい・・・・・・」
「私の神力のほんのごく一部です。それをあなたに譲渡しました。その中には、長距離転移を使える力があります。まあ、1度行ったことのある場所だけという限定は付きますが。ですが、今回は日本に帰るだけなので問題はないでしょう。使い方は、光景を頭に思い浮かべ、神力を使うだけです」
戸惑う顔を浮かべる影人にシトュウが説明する。その説明を聞いた影人は「なるほど。ルー◯みたいなものか・・・・・・」と頷いた。
「それと、私の神力の一部を譲渡した事で私とあなたに繋がりが出来ました。あなたと女神ソレイユと同様の状態になったという事ですね。そういうわけですから、私とあなたは念話をする事が可能です。念話の方法はあなたもよく知っているでしょうから、説明は省きます」
「マ、マジかよ・・・・・・確かにそれはそれで楽だしありがたいんだが・・・・・・その、そこまでしてもらってよかったのか? 何か真界のルールとかに接触してそうだが・・・・・・」
続くシトュウの説明を聞いた影人が、少し不安そうな顔を浮かべる。『空』の神力のごく一部でも、人間に譲渡するのはよろしくないのではと、影人は今までの経験(主に神力の人間への譲渡の禁止)から考えた。
「当然と言っては何ですが、神力の譲渡の禁止は私にも当て嵌ります。ゆえに、私の行為は『空』としても、1柱の神としても褒められたものではありません。・・・・・・ですが」
シトュウは恐らくは無意識だろう。少しだけほんの少しだけ口角を上げた。
「あなたにならばいいだろうと思ったのです。こんな気持ちを人間に抱き、また本当に神力の一部を人間に譲渡するなど、少し前の私なら考えもしませんでした。不思議な人間です、あなたは。後、もう1つの理由としては・・・・・・色々と例外ですからねあなたは。だから、まあいいかと」
「その理由なんか色々投げやりになってません・・・・・・? でも、ははっそうか。何かシトュウさん、最初に会った時よりも随分と人間らしいというか、感情が見えるようになったな。いや、もしかしてそっちが素なのか?」
「・・・・・・そうですか?」
笑う影人を見たシトュウはよく分からないといった感じの顔で首を傾げた。シトュウからしてみれば、そんな自覚はなかったからだ。逆にシトュウにそう問い返された影人は、変わらず笑いながら頷いた。
「少なくとも、俺から見たらな。でも多分、零無の奴もそう言うんじゃねえかな」
「・・・・・・別に私も感情を有する生物です。無感情な存在というわけではありませんから」
シトュウはフイと影人から顔を背けた。その仕草がどこか照れ隠しのように見えた。
「そりゃ失礼。でも、俺は今のシトュウさんの方が好きだな」
「っ・・・・・・あ、あなたの好みの話などは聞いていません。問題は解決されたので、転移を開始しますよ」
シトュウは少し強引に話を終わらせると、言葉通り転移の準備を始めた。なぜか無性に羞恥の情を抱いたからだ。ついでに、顔も少し熱いような気がした。
「ああ、分かった。本当、ありがとうなシトュウさん」
だが、影人はシトュウのその様子に全く気づいていなかった。影人の体が透明の光に包まれる。
そして数秒後、影人はその場から姿を消した。




