第1535話 ある願い(2)
宮殿内は外見に見合う美しさだった。白を基調とした宮殿内は細かな彫刻の施された柱がいくつもあり、天井はガラスを通して暖かな光が降り注ぐようになっていた。
「・・・・・・芸術関連の事はよく分からんが、綺麗なもんだな。荘厳というか何というか・・・・・・」
「ここは神々が集う場所ですからね。それに見合う建物だという事です」
床に敷かれているブルーのカーペットの上を歩きながら、ソレイユが影人の呟きに答える。そして、ソレイユと影人がしばらくの間宮殿内を歩き続けていると、正面に白い扉が現れた。その扉は両開きのタイプでこれまた美しく細かな彫刻が施されていた。
「ここです。この扉の先に長老はいるはずです」
「そうか・・・・・・」
扉の前で立ち止まったソレイユが影人の方を向く。ソレイユにそう告げられた影人は、ただ一言そう呟いた。
「・・・・・・じゃ、その長老とご対面と行くか。ソレイユ、紹介だけ頼むぜ」
「それはもちろん。では、開けますよ」
ソレイユが軽く力を込め扉を開ける。扉が内開きに開き、室内をソレイユと影人の目に映す。
そこは大きな広間だった。物はほとんどなく、中央奥に簡素なイスが置かれているだけだ。円状の部屋の外縁部には縦長の窓があり、天井には不思議な光が灯っていた。日の光とは違うが、暖かな光だ。ソレイユのプライベートスペースに満ちる光に似ている。影人はそう思った。
「――む、ソレイユか?」
この部屋にある唯一のイス。そこに座っていた老齢の男がソレイユと影人に目を向けそう声を掛けてきた。名前を呼ばれたソレイユは「はい」と頷くと、その老齢の男に挨拶の言葉を述べた。
「こんにちは長老。今日は長老が会いたいと言っていた人間を連れて来ました。紹介します。彼が私が神力を託した人間、帰城影人です」
「・・・・・・こんにちは。帰城影人です」
ソレイユに紹介された影人がペコリと軽く頭を下げる。紹介の言葉を聞いたガザルネメラズは、軽く目を見開いた。
「おお、君が・・・・・・そうか、来てくれたか。ありがたい。ワシは一応、この神界の長をしておるガザルネメラズというものじゃ。よろしく頼む」
ガザルネメラズはイスから立ち上がると、しっかりとした足取りで影人の方に近づいて来た。そして、好々爺とした笑みを浮かべ右手を差し出して来た。
「あ、どうも」
影人は差し出された手を軽く握った。そして、影人は少し不思議そうに前髪の下の目でガザルネメラズを見つめた。
「ん? どうかしたかの?」
ガザルネメラズは前髪の下の目線に気づいたのだろう。影人にそう聞いて来た。
「あ、いえ・・・・・・その、神は不老不死なのに歳を取るのかと思って。俺が会った神はみんな若い姿でしたから」
「なるほど、確かに疑問に思うかの。君の言う通り、確かに神は不老不死。肉体が一定成長すれば、それ以上は老いんよ。ワシが老いた姿なのは、肉体を変化させているからじゃ。この姿の方が、威厳があるからの。一定の期間を生きた神は自分の肉体を好きに変化させる事が出来るのじゃ。もちろん、若い姿にもなれるぞ」
「そうなんですか・・・・・・」
ガザルネメラズの答えを聞いた影人は納得すると、握っていた手を下ろした。という事は、ソレイユやラルバ、レイゼロールやシトュウも見た目を変化させる事が出来るのかなと影人は思った。
「長老。実は、影人は長老にお願いが――」
影人とガザルネメラズの挨拶が済んだところで、ソレイユが早速影人がここに来た本当の理由をガザルネメラズに伝えようとする。だが、そのタイミングで、
「っ、これは・・・・・・すみません影人。【あちら側の者】が地上世界に現れたようなので、私は対応しなければなりません。なので、私は自分のプライベートスペースに戻ります。すみませんが、後は適当に!」
ソレイユは真剣な顔で影人にそう告げると、ここに来た時と同じ光のゲートを開いた。




