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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1531/2051

第1531話 憧憬(2)

「スプリガン何であなたが!? もしかして、助けに来てくれたの!?」

「スプリガン・・・・・・全く・・・・・・いつもいい所で来るんだから」

 陽華と明夜もそんな反応を示す。2人も光司に倣って影人の本名は呼ばなかったが、2人からしてみればこの状態の影人は帰城影人という名前よりもスプリガンという名前の方がしっくり来る(まあ、それを言えば殆どの者はそうかもしれないが)、ゆえに意識するよりも前に、2人はその名前をスラリと口にしていた。

「っ!? あの人は・・・・・・」

「スプリガン・・・・・・間違いない・・・・あの時の人だ・・・・・・」

 スプリガンという名前を聞いて、その存在を見て驚いたのは海公と魅恋も同様だった。3日前に魅恋と海公を化け物から助けてくれた黒衣の男。その男が今再び現れた。魅恋と海公は食い入るようにスプリガンの背を見つめた。

(ったく、ソレイユの奴が言ってた逃げられない一般人っていうのが、まさか霧園と春野だったとはな。3日前の事といい今回の事といい・・・・・・あいつらこっち側の世界に引かれてねえか?)

 背後にいる魅恋と海公に気づいた影人は驚きを態度にこそ出さなかったが、内心では驚きそう思っていた。こっち側の世界、つまり命を天秤にかける血生臭い戦いがある非日常の世界に、クラスメイトである魅恋と海公が近づいて来ているのではと影人は多少心配していた。

『くくっ、もしかしたら光導姫と守護者コースかもな』

「・・・・・・物騒な事言うんじゃねえよ」

 笑うイヴに影人はポツリと小さな声でそう言った。ただでさえ、同じ学校に陽華や明夜、光司や暁理がいるのに、これ以上増えたら色々と面倒だ。しかも、魅恋と海公はクラスメイトだから余計に。

『はっ、隙だらけだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!』

 影人がそんな事を考えていると、怪物が叫びながら左の巨拳を影人目掛けて振るって来た。同時に反対方向から尾を振るって来る。その尾は最初とは形状が変化していて、斧のように鋭くなっていた。

「っ、気をつけてスプリガン! そいつの攻撃は――!」

 陽華が影人に対し注意の言葉を投げかけようとする。だが、

「・・・・・・騒ぐなよ。別に・・・・・・一瞬だ」

 影人はどこまでも冷めたようにそう言うと、右手を怪物に向けある言葉を唱えた。

「――『世界端現』。影闇の鎖よ、出でて我が意に従え」

 瞬間、虚空から闇色の鎖が複数出現する。その鎖は凄まじい速さで怪物の左手と尾を縛った。結果、攻撃が影人に届く事はなく、怪物はその場に固定された。

『なっ!?』

「正直、お前には過ぎた代物だが・・・・・・まあ、お前みたいな三下に力の差を教えてやる分にはいいだろう」

 拘束された怪物は驚いたように声を漏らす。影人は口では煽るようにそう言いながらも、内心は警戒の態度を崩さず、右足に『破壊』の力を付与した。

『調子に乗りやがって! こんな鎖程度ですぐに引きちぎって――!』

 怪物が全ての力を以て鎖を破壊しようとする。だが、怪物がいくら力を込めても虚空から伸びる鎖はびくともしなかった。

「・・・・・・無理だな。その鎖はただの鎖じゃない。さっき言っただろ。お前には過ぎた代物だってな」

 影闇の鎖は純粋な力でしか破壊する事は出来ない。唯一の例外は『終焉』くらいだ。そして、その純粋な力も尋常ではなく強いというくらいでは破壊出来ない。腕力だけで大地を広範囲で深く砕き割るような、想像すらも超えるような力でなければ。今まで純粋な力だけで影闇の鎖を壊したのは、真祖化したシェルディアと零無くらいだ。

「さて、じゃあ・・・・・・終わりにしてやるよ」

 影人は冷たい金色の瞳を怪物の胴体部、その中央に向けた。取り敢えず狙いはあそこでいいだろう。

『ふざけやがってふざけがって! てめえは絶対に殺――!』

 怪物がその闇を飼う口を開ける。闇の中に蒼炎が渦巻く。怪物が何か攻撃をしようとする。だが、それよりも圧倒的に速く影人は地を蹴った。

「ふん」

 影人はその右足で怪物の胴体中央部を蹴り抜いた。

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