第1530話 憧憬(1)
(さて、登場は決まったのは決まったが・・・・・・攻撃しちまって良かったんだよなソレイユ?)
怪物の腕を切断した闇色の片手剣を虚空に消しながら、戦場に舞い降りた男――スプリガンこと帰城影人は内心でソレイユにそう聞いた。
『はい。その【あちら側の者】に対話する意思はありませんでした。先に攻撃した非はこちら側にありますが・・・・・・やむを得ないです』
明夜の視界を共有して戦いを観察していたソレイユはそう言葉を返した。
(了解だ。じゃあ、俺はこいつを殺すもしくは戦闘不能にすればいいのか?)
『こ、殺すのは出来るだけ控えてください。流入者たちも被害者なのですから。というか、発想が物騒過ぎますよあなた・・・・・・』
(そうか? 戦いってのはつまるところ殺し合いだろ。だがまあ、分かった。なら、半殺し程度の戦闘不能にしてやるよ)
引いたようなソレイユの声に、その辺りの感覚が少し壊れている影人は取り敢えずソレイユの旨を了承した。
『何でそう言葉が乱暴なんですか・・・・・・ですが、それでお願いします。流入者がしばらくその場から動かないか、光の力で著しく弱体化すれば、流入者を元の世界に転移させる事が出来ますので』
(へえ、それが転移の条件なのか。光導姫の光の力ってのは本当便利だな)
という事は、【あちら側の者】の属性も闇という事か。レイゼロールや闇奴や闇人、影人を含む者たちはその力の属性が闇に分類される。そして、闇の力は光の力に弱い。つまりは今ソレイユが言ったように闇に属する者が光の力を受ければ、その程度によるが弱体化するのだ。
『あァァァァァッ・・・・・・! 俺の、俺の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! よくも、よくも俺の腕を! てめえいったい何者だ!?』
腕を影人に切断された怪物が、眼窩に浮かぶ青の揺らめきを睨むような形に変えそう叫ぶ。光導姫や守護者同様の言語理解システムを変身しその身に纏っている影人は、怪物の言葉を理解すると冷たく低い声を意識しながらこう名乗った。
「何者か・・・・・・いいぜ、教えてやる。俺の名前はスプリガン。それが俺という全てを表す言葉だ」
クールな謎の男というコンセプトは正体が一部の者たちにバレた今でも変わることはない。内心では「あの骸骨は何言ってるか分からなかったけど、こいつは言葉通じるんだ」と思いながら、影人はスプリガンを演じた。
ちなみに、あの骸骨の言葉を影人が理解できず、この怪物の言葉を理解出来た理由は単純で、あの骸骨の漏らしていた声が言葉ではなかったからだ。だが、【あちら側の者】に対する知識が全くない影人はその事が分からなかった。
『スプリガンだぁ? 知らねえ名前だな! どうでもいいが、お前をぐちゃぐちゃにしねえと気が済まねえ! 代償は支払ってもらうぜ! お前の魂でな!』
「・・・・・・支払うつもりはない。お前みたいな三下に、俺の魂は高過ぎるからな」
怒り狂う怪物に影人がそう答える。すると、そのタイミングで、
「き・・・・・・スプリガン。どうして君が・・・・・・」
光司が驚いたようにそう言葉を呟いた。一瞬影人の名前を呼びかけた光司だったが、魅恋や海公がいる事を考慮し光司はスプリガンの名前を呼んだ。




