第1528話 勇気(4)
「え、え? 月下先輩に香乃宮先輩まで・・・・・・?」
「い、いったい何がどーなってんの・・・・・・?」
新たに現れた2人も風洛高校の有名人、月下明夜と香乃宮光司だった。
「ご、ごめん! 何か危険な空気だったから・・・・・・」
「全く・・・・・・これだから脳筋は」
「の、脳筋じゃないし!」
陽華と明夜が張り詰めた空気の中、少し緩さを感じさせる言葉を交わす。そんな2人とは違い、光司は魅恋と海公にこう声を掛けてきた。
「君達は風洛高校の生徒だね。色々聞きたい事、混乱している事があるとは思うけど・・・・・・今は何も言わずに逃げてほしい。お願いだ」
2人の制服から魅恋と海公が風洛の生徒だと分かった光司が2人にそう促す。光司にそう言われた2人は「で、ですが・・・・・・」「パイセン達も危ないんじゃ・・・・・・」と心配そうな顔でそう言った。
「ありがとう。君たちは優しいね。でも、大丈夫だよ。僕たちには力があるから。例え戦いになっても問題はない。だから、逃げてくれ。それが最善の道なんだ」
「っ・・・・・・分かりました」
「香乃宮パイセンがそう言うなら・・・・・・」
真剣な光司の言葉を聞いた海公と魅恋は気がつけば頷いていた。状況は依然全く分からないが、光司が嘘を言っているとは思えない。ならば、自分たちが逃げる方がいいのだろう。魅恋と海公が逃げようとすると――
『逃げる気かよ? ダメだ、今度は逃さねえぜ』
怪物が2人の動きに気がついた。怪物は右手を奇妙な形にして何か言葉を呟いた。すると、魅恋と海公が逃げようとしている道の先に闇色の壁のようなものが出現した。その壁が2人の逃げる先を遮った。
「「っ!?」」
「なっ・・・・・・!?」
その光景を見た魅恋と海公は立ち止まり、光司は驚いた。障壁の先は十字路になっていたが、この道は1本道だ。つまり、逃げる方向は怪物のいる方向しかない。それは実質的に、逃げ道を封じられたという事だった。
「っ、これは・・・・・・」
「待って! さっきは攻撃しちゃったけど、私たちはあなたと話がしたいの! お願い、話を聞いて!」
明夜と陽華もその壁に気付き、陽華が怪物にそう声を飛ばす。陽華の言葉を理解したのか、怪物は陽華にこう言ってきた。
『ああ? 話なんかしねえよ。俺は腹減ってるんだ。てめえら全員の魂を喰うって今決めたんだ。俺に喰われた後なら話を聞いてやってもいいぜ?』
「っ、これは・・・・・・戦うしかないみたいね」
「うん・・・・・・やるしかないみたい」
怪物同様に怪物の言葉を理解した明夜と陽華が厳しい顔になる。ちなみに、会話が成立しているのは光導姫形態の言語理解システムが関係している。光導姫(守護者もだが)は、違う国の光導姫と共闘する事もあったので、違う国の言語を理解出来るようになっている。例えば日本人なら、英語が母語である日本語に聞こえるといった感じだ。それは光導姫の言葉も同じで、光導姫の言葉はその者が最も親しんだ言葉として相手に聞こえる。
そして、それはどうやら異世界の言語も同様の扱いを受けるという事らしい。つまり、怪物の言葉が陽華や明夜、光司などには日本語に聞こえ、怪物には陽華の言葉が異世界の言語に聞こえたという事だ。それが、陽華と怪物の会話が成立している理由だった。
「香乃宮くん、2人をお願い出来る? 私と明夜は戦わなきゃいけないから」
「・・・・・・分かった。2人は僕が必ず守り抜いてみせるよ」
陽華が光司に魅恋と海公を守るように頼む。光司は真剣な顔で陽華の言葉に頷いた。
「ごめん。そういう事になってしまったから、僕が君たちを守る。だから、出来るだけ僕の後ろにいてほしい。大丈夫、君たちには傷1つ付けさせないから・・・・・・!」
「は、はい・・・・・・」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
光司にそう言われた海公と魅恋がその首を縦に振った。2人の言葉を聞いた光司は「ありがとう」と言って2人の前に出た。
「よし・・・・・・じゃあ、行くよ明夜」
「ええ、やるわよ陽華」
『ははっ、来いよ。絶望に染まった魂を・・・・・・俺に喰わせろ!』
拳と杖を構える陽華と明夜。そんな2人を睥睨した怪物はその両手を広げそう言った。
こうして、怪物と光導姫の戦いが始まった。




