第1525話 勇気(1)
「・・・・・・ねえ、海公っちもあの事は誰にも話してないんだよね?」
時は少し遡る。海公と一緒に道を歩いていた魅恋は海公にそう聞いて来た。
「・・・・・・はい。霧園さんもですよね?」
「うん。あんな不思議な事、みんなにも話したかったし、SNSにも投稿したいって思ったけど・・・・・・出来なかった。もちろん、脅されたっていうのもあるけど。でも、なんでかさ」
海公に同じ事を聞かれた魅恋はその首を縦に振る。魅恋の言葉を聞いた海公は魅恋の言葉に理解を示す。
「分かります。僕もなぜか言えないんです。誰かに話してしまえば、あの出来事が夢かなにかになるような気がして・・・・・・」
「そうそれ。ウチも似たような感じなんだ。でも本当、あの人何だったんだろ・・・・・・」
スプリガンと名乗った黒衣の男。目の色が金色という事もあって、まるで不吉な黒猫を連想させる。普通では説明できないような特殊な力を使って、化け物と戦った男。魅恋は彼が何者であるのか全く分からない。
「・・・・・・悪い人ではないと思います。僕たちを助けてくれましたし。それに・・・・・・脅しだけで済ませてくれましたから」
「そう・・・・・・だよね」
目撃者である海公と魅恋の口を封じたいのならば、もっと確実な方法があったはずだ。だが、スプリガンはそうしなかった。海公と魅恋を無傷で日常に帰してくれた。
「でも、気になるよね。あの人の事もあの怪物の事も。はあー、マジで気になり過ぎて無理だわ」
魅恋はうーんと悩むような顔で大きくため息を吐いた。魅恋は基本好奇心が旺盛というタイプではない。ただ楽しければ、みんなと明るく笑い合えていればいいとしか考えて来なかった。それが、魅恋の幸せ。それが霧園魅恋の本質だ。
しかし、その考えを、幸せを、本質を蝕むかのように、今の魅恋の中には好奇心と知りたいという欲求が生じている。魅恋はその欲求に頭を悩ませていた。
「・・・・・・僕もあの出来事が何だったのかは知りたいです。今この世界で何が起きてるのか。その理由も知りたい。でも・・・・・・不思議に思われるかもしれませんが、僕はいま何よりも・・・・・・またあの人に会いたいです」
「っ・・・・・・!?」
海公の漏らした本心を聞いた魅恋は驚いたような顔を浮かべた。そして、「そっか・・・・・・」と呟くとこう言葉を続けた。
「実は・・・・・・ウチもなんだ。ウチもまたあのスプリガンって人に会いたい。助けてもらったお礼の言葉も言いたいし」
「そうですね。僕たち、お礼も言えてないですもんね」
無意識に魅恋は少し口角を上げる。海公も小さく笑う。
(きっと僕が心の底の底で思っている事は――)
(ウチがあの人に抱いてるこの気持ちは――)
海公と魅恋が自身の抱いている本当の気持ちを自覚する。
そんな時、いかなる偶然かはたまた不幸か、
ピシリと空間に亀裂が奔った。そして、
「・・・・・・!」
突然、虚空から異形が現れた。




