第1524話 怪人の立ち位置は(5)
「――ねえ海公っち。今日は一緒に帰らない?」
「え?」
放課後。魅恋は海公にそう声を掛けた。魅恋にそう言われた海公は、帰り支度をしながら少し驚いたような顔を浮かべた。
「2人っきりで。お願い。ダメかな?」
「っ・・・・・・」
魅恋が真剣な表情でそう聞いてくる。魅恋のその顔を見た海公は、魅恋があの事を話したいのだと察した。
「魅恋ー、遊びに行かないの?」
「ごめん、今日ウチちょっと用事あってさ。悪いけどパスって事で」
呼びかけて来た女子生徒に魅恋はそう言葉を返した。魅恋の答えを聞いた女子生徒は「りょーかい」と言って、他の女子生徒たちと一緒に教室を出て行った。
「で、どう?」
「そ、その・・・・・・」
催促を受けた海公はチラリとその目を影人へと向けた。ここ最近は影人と途中まで一緒に帰る事が多いからだ。あの話は影人がいては出来ない。海公がそんな事を考えていると、
「ああ、じゃあ俺はお先に失礼して」
影人は鞄を持って立ち上がり教室の外へと向かって行った。魅恋がいたので、少し丁寧な言葉を述べながら。そして、影人は教室から出て行った。
「っ、帰城さん・・・・・・」
影人が出て行ったのを見た海公は、影人が気を利かせてくれたのだと理解した。海公は心の中で影人に感謝をすると、その目を魅恋に向け直した。
「はい、大丈夫です。僕も今日は霧園さんと帰りたい気分だったので」
そして、海公も真剣な顔でそう答えを述べた。
「そっか・・・・・・ありがとう。じゃあ、行こっか」
「はい」
2人は互いに頷き合うと、並んで歩きながら教室を出た。
『そういや、よかったのかよ? あいつらを尾行しなくて。一応警戒してんだろ』
約30分後。教室を出た影人は珍しく学校の図書室で本を読んでいた。教室にいる間は集中して読めていなかったからだ。影人が読書をしていると、暇なのか突然イヴがそんな事を聞いて来た。
(ん? ああ、別にいいんだよ。互いに目撃者であるあいつらがその事について話す分には問題ないからな。適度に気にする事が大事であって、気にし過ぎはよくないからな)
図書室では静かにしなければいけないという事もあって、影人は心の中でイヴにそう言葉を返した。影人の答えを聞いたイヴ『けっ、そうかよ。クソつまんねえ理由』と言って悪態をついた。
『つーか、こんな所で時間潰してたらあのヤンデレ幽霊がうるせえぞ。大丈夫なのかよ』
「っ、そういや零無の事忘れてたな・・・・・・」
イヴの指摘に影人は思わず声を漏らした。間違いなく、零無は影人の帰りが遅ければイヴの予想通り文句を言ってくるだろう。想像するのが容易すぎる。
「俺の優雅な時間が・・・・・・はあー、仕方ねえ。帰るか」
影人はため息を吐くと、本に栞を挟んでそれを鞄の中に入れた。そして、影人が図書室から出ようとした時、
キイィィィィィィィィィィィィィィィィン
「っ・・・・・・!?」
影人の中に突如そんな音が響いた。その音が聞こえた同時に、影人の脳内にある場所までの地図のようなものが広がった。かなり近い。ここから約1キロかそれくらいの場所だ。間違いない、これは――
『影人!』
次の瞬間、影人の中にソレイユの声が聞こえてきた。真剣な声だ。
(ソレイユか。何があった? それにこの合図は・・・・・・)
『ええ。闇奴出現の時と同じものです。これもそのまま使えるので流用しました』
(っ、って事は・・・・・・)
『はい。【あちら側の者】が現れました。しかも、敵対的な者です。ゆえに、私は近くにいた陽華と明夜、ラルバは10位の守護者を向かわせたのですが・・・・・・』
「10位って事は香乃宮か。それで、戦いになったんだな?」
図書室から急いで出た影人はソレイユにそう聞いた。
『はい。ですが、3人は苦戦しています。ゆえに、あなたに助力をお願いしたいのです』
「それは別にいいが・・・・・・その相手はそんなに強いのかよ? 今のあいつらが苦戦するって相当だぞ・・・・・・?」
光司は言わずもがな、陽華と明夜の2人も今では相当な実力者だ。今のあの2人の実力は最上位の光導姫にも引けを取らないと影人は思っている。影人は警戒と緊張を強めた。
『いえ、相手が強力という事も確かに一因ではあるのですが・・・・・・3人が苦戦している主な理由はそれではありません。それは見てもらえば分かります。とにかく、あなたは現場に急いでください!』
「ちっ、分かったよ・・・・・・!」
影人はそう言うと階段を駆け降りた。そして、校舎を出た影人は人目につかない場所に移動し、ズボンのポケットからペンデュラムを取り出した。
「変身」
影人が力ある言葉を呟く。すると、ペンデュラムの黒い宝石が黒い輝きを放つ。そして、影人は黒衣の怪人スプリガンへと変身した。
「行くぜ・・・・・・!」
影人は透明化を使用すると、一陣の風の如く戦場に向かって駆け出した。




