第1518話 馴染み深い問いかけ(4)
「うわー・・・・・・凄い・・・・・・」
魅恋は20メートルほど走った先の電柱の陰にいた。そしてそこから骸骨の化け物と、先ほど自分たちを助けてくれた謎の黒衣の男が戦っている光景を見つめていた。
「き、霧園さん」
「海公っち、見て。凄い、凄いよ。これ、現実なんだ・・・・・・漫画でもアニメでもない。フィクションじゃない・・・・・・本物の、現実なんだよ・・・・・・」
呼びかけて来た海公に、魅恋はその光景を見つめたままそう言った。魅恋は死の恐怖すら超えて、心奪われているようだった。魅了されているようだった。目の前の非日常極まりない光景に。魅恋はどういった理由からかは分からないが、震えていた。
「霧園さん・・・・・・やっぱりマズいですよ。一緒に逃げましょう」
「・・・・・・ごめん、それは無理。海公っちだけでも逃げて。私は・・・・・・この光景を焼き付けなきゃいけないから」
魅恋はそう言うと、どこからかスマホを取り出すとスマホのカメラを骸骨と黒衣の男に向けた。魅恋は戦いを動画で撮ろうとした。
「え・・・・・・? な、何で・・・・・・? 何であの人は映らないの・・・・・・?」
しかし、画面内にはなぜかあの黒衣の男の姿が映らなかった。骸骨は映っているから故障とは考えにくい。その答えは、スプリガンの隠蔽の力のせいなのだが、そんな事は当然魅恋は知らなかった。
「ああもう、意味分かんない・・・・・・! 海公っち、海公っちのスマホでもあの人映らないか試してみて!」
「え?」
「いいから早く!」
「は、はい!」
真剣な顔でそう言ってきた魅恋に、海公は反射的に頷くとズボンのポケットからスマホを取り出した。そして、カメラを起動させるとスマホを骸骨たちの方へと向けた。
「あ、あれ・・・・・・? すいません、僕のカメラにもあの人映らないです・・・・・・」
「っ、何で・・・・・・だったらもう、仕方ないから目に焼き付けまくるしかないじゃん・・・・・・!」
戸惑う海公の言葉を聞いた魅恋は、電柱を無意識に力強く握りながら目の前に広がる光景を凝視した。この光景を決して忘れないように。
それから魅恋は取り憑かれたようにその光景を見続け、魅恋を1人に出来ない海公もなし崩し的にその場に留まり続けたのだった。
「・・・・・・何であいつらがここにいるんだよ。人払いの結界は展開されてるはずだろ・・・・・・」
『人払いの結界はあくまで無意識に働きかけるものだからな。強すぎる意思があれば、効かない事もあるんだよ。今回は、あいつらの意思が結界の力を凌駕したって事なんだろ。まあ、稀なケースだがな』
意味が分からないといった様子で、影人は気がつけばそう言葉を漏らしていた。影人の呟きにイヴはそう答えた。
「ちっ、マジかよ・・・・・・」
「ケケッ!」
影人が軽く悪態をつく。それを隙と感じたのか、骸骨が影人の方へと駆け距離を詰めて来た。鎧を脱いだためだろう。先ほどよりもかなり速い。
「ちっ・・・・・・!」
影人は2人に割いていた意識を骸骨の方へと向け直し、左手で軽く指を鳴らした。すると闇色の騎士の姿が変化し、黒い炎の剣と化した。その剣は自我を持っているかのように、背後から骸骨目掛けて飛来した。
「ケ!?」
勘がいいのか、背後から迫る黒炎の剣に気がついた骸骨は緊急にその剣を回避した。しかし、緊急的な回避は往々にして隙が生じやすい。影人はその隙を見逃さなかった。
「・・・・悪いな。戯れの時間は終わりだ・・・・・・!」
影人は自身に『加速』を施し、一瞬で骸骨との距離をゼロにした。そして『硬化』で肉体の強度を上げ、
「シッ・・・・・・!」
影人はその全身を振るい、打撃の連打を骸骨に浴びせた。
「ケ・・・・・・!?」
その結果、骸骨の全身は粉々に砕かれた。立っている事が出来なくなった骸骨はバラバラに地面へと落下し、戦闘不能へと陥った。




