第1516話 馴染み深い問いかけ(2)
「・・・・・・そうだ。それでいい」
その光景を見た影人は小さな声でそう呟くと、視線を骸骨の方へと戻した。一応、ずっと警戒はしていたので分かっていたが、骸骨はガシャガシャと音を立てて、立ち上がったところだった。
『――影人!』
影人の中にソレイユの声が響いた。影人は声には出さずに内心でソレイユに言葉を返した。
(ようソレイユ。今は視覚共有してるどうかは知らんが、俺は今絶賛骸骨野郎と邂逅中だ)
『それは分かっています。謁見中のシトュウ様に、あなたの近くに【あちら側の者】が現れたと言われて、あなたに語りかけたので。大丈夫ですか?』
(ああ、今のところは何の問題もない。ただ、俺は光導姫じゃないから人払いの結界は展開出来てない。俺はその結界を張ろうと思った事がないから、展開出来るかどうかはイヴに聞いてみないと分からん)
影人が唯一の懸念点を述べる。すると、ソレイユはこう言葉を返してきた。
『一応、人払いの結界の展開についてはそれほど難しいわけではないので出来ると思いますが・・・・・・あ、待ってください。どうやら、今シトュウ様があなたがいる辺り一帯に結界を展開してくださったようです。だから、もう心配しないで大丈夫です』
(そうか。シトュウさんに礼言っといてくれ。じゃ、結界の展開を試すのは次回に回すか。悪い、ソレイユ。俺は今からバトるから話はまた後でな)
『はい。影人、ご武運を』
懸念点を払拭できた影人は最後にソレイユにそう念話した。ソレイユも最後にそう言葉を送ってくれた。
「ケ、ケケッ?」
骸骨は首を傾げながら影人をジッと見つめてきた。まるで品定めでもしているかのように。
「・・・・・・通じてるかどうかは知らないが、来いよ。お前の力がどの程度か確かめてやる」
昨日のドラゴンの時とは違い、今度は戦術的な目論みの点から影人はそう言葉を放つ。昨日の場合はドラゴンの攻撃の種類や特性を知っていたので、挑発の意味合いから似たような事を言ったが、今回の骸骨は初めての相手だ。ゆえに、影人は最初は観察したいと考えていた。
「ケケ、ケケケッ!」
すると、影人の言葉が通じたかどうかは分からないが、骸骨は剣を携え影人の方に突っ込んできた。鎧を着ているというのに、中々のスピードだ。
「ふん・・・・・・」
影人は虚空から闇色の鎖を複数呼び出し、それらを骸骨へと向かわせた。
「ケケッ!」
骸骨はその姿からは想像も出来ないような身軽さで鎖を躱した。縦横無尽なアクロバティックな動きで。鎖を掻い潜り影人に接近した骸骨は、影人に向かって右袈裟に剣を振るって来た。
(へえ・・・・・・案外に動けるな)
素直にそう思いながら、影人は右手に闇色の片手剣を創造すると、その剣で以て骸骨の剣を受け止めた。
「ケ、ケケッ!」
影人に剣撃を受け止められた骸骨は、乱雑に剣を振るい影人を切り刻もうとしてきた。しかし、乱雑で適当な剣撃程度で傷を負う影人ではない。影人は眼の強化も使わず、その剣撃を己の剣で弾き続けた。
「・・・・・・お前の攻撃パターンはこれだけか? そうだって言うのなら・・・・・・次はお前の耐久力を試させてもらうぜ」
取り敢えず受けの姿勢はここまでと考えた影人は、自身の体を闇で強化した。影人の体に闇が纏われる。『加速』はまだ使わなくてもいいと判断した影人は、右手の剣を虚空に消し骸骨の剣を避けると、
「闇よ、蹴り砕け」
一撃を強化する言葉を呟き、右の蹴りを骸骨の鎧中央部に叩き込んだ。先ほどの飛ばす蹴りではなく、敵にダメージを与えられる力を持った強烈な蹴りを。
「ケ!?」
その結果、影人の蹴りは骸骨の鎧を蹴り砕き、骸骨の胴体部の骨を一部砕け散らせる事に成功した。影人に本当の意味で蹴り砕かれた骸骨は、驚いたような声を漏らすと、後方へと吹き飛んで行った。




