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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1514/2051

第1514話 流入する者(4)

「・・・・・・ちょっと腹減って来たな。しゃあねえ、コンビニ行ってちょっと何か買うか」

 そんなこんなで賑やかに歩き続け約20分後。歩いたから小腹が空いた影人は右手で軽く腹をさすった。幸い、金欠と言っても財布に200円くらいは入っているので何かは買える。影人は近くのコンビニに向かって歩を進めた。

「――あれ海公っちじゃん? 奇遇だねーこんな所で!」

「き、霧園さん?」

「ん・・・・・・?」

 すると道中、前方から聞き知った声が聞こえてきた。その声を聞いた影人は前髪の下の目をその声の聞こえて来た方に向けた。

「あれは・・・・・・霧園と春野か?」

 影人から少し離れた先の十字路に魅恋と海公の姿が見えた。2人とも休日なので私服姿だ。影人は反射的に近くあった電柱の陰に隠れた。見つかれば色々面倒だと思ったからだ。

「ん? 影人、急にどうしたんだい?」

「ちょっと知り合いがいてな。片方は全くなんだが、もう片方に見つかったらちょっと面倒そうだから隠れただけだ」

 不思議そうな顔を浮かべる零無に影人は小さな声でそう言った。ちなみに言わずもがな面倒そうなのは魅恋である。前髪は青春センサーが友情方面(バカ共との)しかないので、休日に異性のクラスメイトと出会うといった感じのイベントは求めていなかった。ある意味さすがである。

「海公っち家ここら辺なの?」

「あ、はい。ちょっと近くのコンビニに行こうかなと思って・・・・・・」

「マジ? ウチもコンビニ行く予定だったんだ。じゃ、一緒にコンビニ行かない?」

「そうですね・・・・・・はい。それくらいなら全然」

 魅恋の提案に海公は頷いた。今回は別に嫌とかそういうのではなかったからだ。海公の頷きを見た魅恋は「ありがと〜! よし、じゃ行こ!」と喜び、海公と一緒に歩き始めた。

「おいおいマジかよ・・・・・・行き先被ってんじゃねえか。仕方ねえ、ちょっとタイミング遅らせて――」

 電柱の陰にいた影人が軽く嘆いている時だった。唐突に何よりも唐突に、


 ピキリ、と空間に黒い歪みが奔った。


 そして、

「ケ、ケケケ?」

 その裂け目から異形が飛び出した。その異形は言うなれば西洋風の鈍色の鎧を纏った骸骨だった。右手にこれまた鈍く光る剣を携えた骸骨は、先ほどまで海公と魅恋が話していた場所に現れると、奇怪な声を漏らし、金属の擦れるような音を放ちながら、その漆黒の眼窩で周囲を見渡しカタリと不思議そうに首を傾げた。

「っ!?」

「え、何?」

「?」

 その異形の姿を見た影人は驚愕し、歩いていた魅恋と海公は背後から生じた音に振り返った。そして、2人もその異形の姿を確認した。

「・・・・・・え? な、なにこれ・・・・? 骸骨・・・・? 急に何・・・・・・?」

「え、あ・・・・・・え・・・・・・?」

 初めて目撃する非日常に、魅恋と海公はただ理解できず固まっていた。それは仕方がない、当然の反応だった。

「ケケ? ケケッ!」

 骸骨はそんな2人に気づき、真黒な眼窩で見つめた。最初こそ「何だこいつらは?」的に首を傾げていた骸骨だったが、急に何かを理解したようにカタカタと骨を鳴らし笑みを浮かべると(肉がないのに笑うとはおかしいが)、ゆっくりと2人に近づき始めた。不幸な事にというべきか近くに2人以外に人の姿はなかった。

「ッ! マズい・・・・・・!」

 嫌な予感がした影人はすぐにポケットからペンデュラムを取り出した。

「ケケケッ!」

「ひっ・・・・・・」

「あ、ああ・・・・・・」

 2人に近づいた骸骨は右手に握っていた剣を掲げた。その段階でようやく魅恋と海公は恐怖を覚えたが、しかし体は凍りついたように動かなかった。

「ケケッ!」

 そして、骸骨はその右手の剣を魅恋に振るった。

「変身・・・・・・!」

 影人が詠唱したのはそれとほとんど同じタイミングだった。黒い輝きがペンデュラムの黒い宝石から発せられ、影人の姿が変化する。黒衣の怪人、スプリガンに。その輝きに骸骨にのみ意識を割いていた魅恋と海公は気づく事は出来なかった。

「シッ・・・・・・!」

 理由や疑問などは一旦全て捨て去り、一陣の黒風と化したスプリガンは、骸骨と魅恋と海公の間に割って入ると、その腹部を蹴飛ばした。

「ケ!?」

「「え・・・・・・?」」

 蹴り飛ばされた骸骨は驚いたような声を上げ、魅恋と海公は揃ってそんな声を漏らした。

「・・・・・・お前の相手は俺がしてやる。せいぜい、光栄に思えよ骸骨野郎」

 そして、骸骨を蹴り飛ばした影人は右手で軽く帽子を押さえながら、そう宣言した。

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