第1513話 流入する者(3)
「影人! やっと帰って来たか! ああ、たった320秒とはいえ一日千秋の思いだったぞ!」
地上に戻るとすぐに零無がそんな事を言って絡んで来た。零無にそう言われた影人は少しうんざりとした顔でこう言った。
「大袈裟な奴だな・・・・・・というか、お前普段俺が学校行ってる間は比べ物にならないくらい長い時間待ってるだろ。何で5分ばかりでそんな感じになってんだよ」
「あれは平日の決まった時間だ。お前が休みの土日は吾はずっとお前といる事が決まっているのだから、全然意味合いが違う」
「どういう理屈だよ・・・・・・というか、そんな恐ろしいルールを勝手に決めるな」
真面目な顔でよく分からない理屈を捏ねる零無に、影人はそう言葉を返した。なんだかザ・零無といった感じである。
「さあ影人! せっかくの休日だ! 吾と共に楽しもうぜ! せっかくだからどこかにでも行こう!」
「うるせえ・・・・・・ちっ、分かったよ。ただ、近場だからな」
影人はため息を吐くと歩き始めた。影人は神界に行く前に自宅近くの路地裏にいたので、そのまま適当にどこへとでも向かえる形だ。本日も快晴で出歩くにはいい天気で、路地裏から出ると休日を楽しむ人々の姿が目に入って来た。
ちなみに、この世界全体の様子はというと、一夜明けた今でもかなり混乱しているらしい。世界規模の地震という類を見ない事が起こったため、様々な憶測が飛び交っているようだ。それに、地震の被害も甚大な場所があると、朝のニュースで流れていた。
「・・・・・・あ、そういえば俺もシトュウさんに話あるんだった。ちっ、俺もソレイユに着いて行って真界行けばよかったな」
少し歩いたところで、影人は唐突にそんな事を思い出した。昨日からのゴタゴタのせいで、すっかりその事を忘れてしまっていたのだ。全く、これも全てフェルフィズのせいだ。
「シトュウに話? まさか色恋の話じゃないだろうな。それはダメだぞ絶対に」
「ちげえよ色ボケ。普通に真面目な話だ」
急に恐ろしげな顔でそう言って来た零無に、影人は呆れたようにそう言った。本当にあの戦い以来ポンコツ化が激しい奴である。
『おい影人、暇だ。何か面白い事やれよ』
「いきなりエグい無茶振りをしてくるなよイヴ。はあー・・・・・・ったく俺の内も外も姦しいな」
スプリガンに戻った事によりソレイユとイヴと再び繋がり、更には零無まで憑いた。自分で選んだ結果とはいえ、中々面倒というか精神が休まらない状態である。
「だがしかし、娘のワガママに応えるのも親の務めだよな。仕方ない。長年温めてた俺オリジナルの曲を披露する時が来たみたいだな。よく聞けよイヴ。曲名は『影の舞踏』だ。闇に舞う〜」
『やめろやめろやめろやめろ! 何いきなり歌い始めてやがんだこのバカ! てめえのオリジナルの歌聞かされるとか何の拷問だよ! それのどこが面白いんだ!?』
「キャー! エ・イ・ト! エ・イ・ト」
急に歌い始めた歌手気取りの前髪にイヴが悲鳴を上げる。対して、零無はまるで推しのライブに来ているファンのようにテンションが上がっていた。状況はカオスであった。




