第1509話 元凶たる忌神(3)
「世界間の境界を不安定にさせる事には成功しましたが・・・・・・いささか混沌の具合が弱いですね。見たところ、生物などの流入は向こうの世界からの一方的なもので、こちらの世界からは向こう側には流入していないようですし。それに、神々の対応も思っていたよりも早い」
フェルフィズはメガネに映っているこの世界の国々の各主要都市の光景を見ながら、少し不満そうにそう言った。このメガネはかつてフェルフィズが作った神器だ。必要なマーキングさえすれば、その場所の光景を見る事が出来る。フェルフィズはそのメガネを通して、この世界の現在の状況を観察していた。
「恐らく、向こう側からこちら側への流入は一方的なものに設定されていましたね。全く、こちら側から境界を不安定にさせたのに流入が向こう側からの一方的なものになるとは・・・・・・やってくれましたねあの女」
フェルフィズは少し苛立ったようにそう言葉を吐いた。フェルフィズが言ったあの女とは、かつての真界の最上位の神、零無の事だ。色々と助け、「帰還の短剣」までも貸して消滅させたくせに、この程度の力しかない道具を寄越すとは。フェルフィズが期待していたのは、あくまで両世界からの流入が起こる境界の不安定だ。だが、この程度では期待外れもいいところだ。
「文句の1つも言いに行きたいところですが、この前会った時以来、彼女の気配が全く感じられなくなりましたからね。まあ恐らくは、どういう奇跡か、また封印されたか、戦いに負けて死んだのでしょうが・・・・・・」
フェルフィズは零無からあの3本の道具を貰って以来、零無とは会っていない。零無のその後もどうなったのか知らなかった。そのため、フェルフィズは以前は感じられた零無の気配が感じられなくなった事をそう推測していた。零無はシトュウから力を奪ってから自身の気配を完全に遮断していたが、フェルフィズにだけは分かるようにしており、そのためフェルフィズは零無の気配が消えたという事実を理解していた。
だが、事実は少し異なり零無は幽霊として生きている。ではなぜ零無が封印される前に、幽霊状態でも零無の気配を感じ取る事が出来たフェルフィズが、今回は気配を感じられなくなったのか。
それは、零無の幽霊としての在り方が変わった事が理由だった。零無は影人に肉体を殺されたショックが原因で幽霊としての在り方が変わった。どんな者もチャンネルを合わせれば零無の存在が感じ取れる代わりに、零無がチャンネルを合わせていない者、又は無調整状態の零無を感じ取る事が出来るのは、零無の魂のカケラを宿す影人、零無と魂の格が同等の真界の神々くらいとなった。もちろん、そこに気配も含まれるため、神界に所属していた下級の神であるフェルフィズは零無の気配を感じ取れなくなったのだ。
「まあ、いかに神々といえども完全に境界を元に戻すには時間が掛かるでしょう。出来ればその間に色々と仕込みをしたいですね・・・・・・なので、今はまあこの状況で良しとしましょう」
フェルフィズは気を取り直すようにそう呟くと、笑みを浮かべた。
その笑みには狂気と邪悪さが宿っていた。




