第1508話 元凶たる忌神(2)
「落ち着けよ。その対処のためにシトュウは真界に戻ったんだ。今頃は真界の神々と神界の神々どもが対処してるだろうぜ。だから、それほど大事にはなってないはずだ。まあ、世界の境界が完全に崩壊していればかなり危険だっただろうが、今回はあくまで境界が揺らいでるだけだしな」
そんな2人に零無は変わらぬ様子で言葉を吐く。影人は零無のその言葉を聞いて、「そ、そうか・・・・・・」と言って取り敢えず少し落ち着いた。もちろんまだ動揺はしていたが。
「零無。世界と世界の境界が不安定になって、向こう側の世界の者たちがこちらに現れているという事は、その逆も起こっているのではないの? つまり、こちらの世界の者たちも向こう側の世界に現れているんじゃないの?」
シェルディアがそう指摘する。だが、零無はその首を横に振った。
「いや、それはない。確かに両世界の境界は揺れて不安定になっているが、今回の場合は向こう側の者たちがこちら側に来ても逆は発生しないという、いわば一方通行の状態になっている。境界が不安定になって所々空間に亀裂が入っているが、普通の人間などはその亀裂に入る事は出来ない。吾がそう設定したからな」
「っ・・・・・・!? おい、どういう事だ零無。今の言葉・・・・・・お前がこの事態を引き起こした元凶って事か?」
影人は零無を睨みながらそう問うた。そうだとするならば、いったいいつ事態を引き起こす仕込みをしたのかなどの疑問はある。だがそれよりも、影人は怒りを覚えていた。多少は改心したと思ったのに、まだ悪意を振りまこうというのか。
「まあ、吾が元凶といえば元凶なんだがね。ただ、吾は道具を創っただけだよ。次元の境界を不安定にする道具をね。それを使って、この状況を作り上げたのは別の奴さ」
「誰だそいつは!? お前はいったい誰にその道具を渡した!? 答えろ零無!」
影人に睨まれた零無は軽く肩をすくめながらそう言った。影人は語気を強め、零無にそう言葉を飛ばした。シェルディアも鋭い目を零無に向けた。
「いいよ、教えよう。吾がその道具を渡した相手は、吾が『物作り屋』と呼んでいる者だ。そいつの得意な事もとい権能が物作りでね。だから、吾はそいつをそう呼んでる。そいつの名前は・・・・・・」
そして、零無はこの事態を引き起こした者の名を放った。
「フェルフィズ。かつて忌神として神界を追われた神さ」
「くしゅん・・・・・・ふーむ、誰かが私の噂でもしているんでしょうかね。私は風邪なんて引きませんし」
くしゃみをしたその男――男神フェルフィズは右手の人差し指で軽く鼻下を擦りながらそう呟いた。場所はさっきとは変わり、京都のとあるホテルの一室だ。フェルフィズはイスに座り、机にはコーヒーが置かれていた。その光景から分かるように、フェルフィズは混乱している世界を尻目に寛いでいた。




