第1507話 元凶たる忌神(1)
「嬢ちゃんが元いた世界・・・・・・?」
シェルディアから放たれたその言葉。それを聞いた影人は不思議そうな顔を浮かべた。その言葉の意味も影人は今一理解出来ていなかった。
「・・・・・・影人。あなたには今まではっきり言ってはいなかったと思うけど、私はこの世界に最初から存在していた者ではないの。私は遥か昔に、違う世界からこの世界にやって来た者なのよ」
そんな影人に、シェルディアは補足するように言葉を述べた。
「っ・・・・・・そう、だったのか」
影人は一瞬衝撃を受けた顔になったが、すぐにいつもの顔に戻るとそう呟いた。
「・・・・・・あまり驚かないのね」
「まあ、もう嬢ちゃんの正体も知ってるしな。それに、スプリガンになって驚きっぱなしだったから、驚きに対する耐性がついてるんだ。今更嬢ちゃんが異世界から来た存在だって言われても、そうかって感じだ」
自分をジッと見つめてくるシェルディアに影人は何でもないようにそう言った。既にシェルディアが吸血鬼だと知っている影人からすれば、そこに異世界人という属性が加わったに過ぎない。異世界も、神界や真界の事を知っている影人からすれば、今さら違う世界が何個あろうが驚くべき事ではない。
「というか、その情報で変わる事なんて何もないだろ。だって、嬢ちゃんは嬢ちゃんだしな」
「っ、影人・・・・・・」
そして、影人はそう言葉を続け笑みを浮かべた。影人にそう言われ、影人の笑みを見たシェルディアはどこか驚いたような顔を浮かべた。
「ふふっ、そうね。確かにその通りだわ。全くもう、あなたのそういうところダメよ。本当にダメなんだから」
「え? そ、それどういう意味だよ?」
シェルディアはニコニコと、どこか嬉し恥ずかしそうに笑った。言葉と表情が一致していないシェルディアに、影人は戸惑ったような顔を浮かべた。影人には全く意味が分からなかった。
「ちっ! だらしのない顔してんるんじゃねえよ吸血鬼。見てて不愉快だ」
「あらごめんなさい。あまりにも愉快だったものだからつい」
「っ?」
零無は舌打ちをして呪い殺しそうな勢いでシェルディアを睨みつけた。シェルディアは機嫌が良さそうに笑いながら口元を軽く左手で押さえた。一連のやり取りを聞いていた影人は、やはり意味が分からずに首を傾げた。
「じゃあ、結局はこの世界と嬢ちゃんが元いた世界との境界が不安定になってるから、ドラゴンがこの世界に現れたって事なのか?」
「ああ、そういう事だ。この辺りはあの竜以外に目立ったモノたちは現れていないが、今頃この世界では、あちらこちらに向こう側の世界の者たちが現れているはずだ」
確認を取った影人に零無は頷いた。零無の言葉を受けた影人は再び驚いた顔を浮かべた。
「なっ、全世界にだと!? ヤバいだろそれは!」
「ええ、非常にマズいわね。向こう側の住人がこちらの世界に大量に出て来れば、何が起こるか分からないわ」
影人とシェルディアはそれぞれそんな反応を示した。そうとなれば、今頃世界は大混乱しているはずだ。




