第1505話 事態急変(3)
「っ、分かったよ・・・・・・!」
シェルディアの言葉の意味を正確に理解した影人は、放とうとしていた『終焉』の闇の性質を少しだけ変化させた。そして、『終焉』の闇が無防備な竜の巨体に触れる。
『なっ・・・・・・』
闇が触れた事により、竜の命は急速に死へと向かい始める。
『・・・・・・』
そして数秒後、竜はその目から生命の灯火を失い全身を弛緩させて死ぬと、重力に引かれて影人の方へと落ちて来た。このままでは影人は竜の巨体に潰され地上に激突し、影人が避けても地上に甚大な被害が出る。しかし、それを防ぐために影人はスプリガンに変身したのだ。
「ふん」
影人はつまらなさそうな顔で右手を落ちて来る竜へと伸ばした。すると次の瞬間、周囲の空間から大量の闇色の鎖が出現し、竜を空間に固定した。先ほどつけた『破壊』の痕は、竜の超再生により既になくなっていた。影人は『終焉』の力を解除すると、竜をそのままにしてシェルディアや零無がいるバルコニーの方へと戻って行った。
「あんな感じでいいか嬢ちゃん? 別にやろうと思えばこっちに近づける事も出来るが」
影人は左手で離れた竜を指差しながら、シェルディアにそう聞いた。その言葉にシェルディアは頷いた。
「ええ、ありがとう。場所はあのままで大丈夫よ。それより、時間の方を教えてほしいわね。どれくらいであの竜は目を覚ますの?」
「一応、時間は30分に設定しといた。ちょっと短いかなと思ったが、嬢ちゃんならそれくらいで充分かなと思ってな」
シェルディアの質問に影人はそう返答した。今の言葉から分かる通り、影人は竜を仮死状態にさせたのだ。先日の零無との一件で、影人が『終焉』の力で対象を仮死状態にさせる事が出来ると知っていたシェルディアは、影人に咄嗟にそう言ったのだった。
「分かったわ。あなたの予想通り、充分過ぎる時間よ。それにしても、『終焉』の力は思っていた以上に便利よね。あなたがそう出来るって事は、レイゼロールも当然出来るという事よね?」
「出来るは出来るだろうが、それはレイゼロールの力の習熟度によるな。俺はレゼルニウスから力、知識、習熟度を含む全てを受け継いだから出来るってだけだし。多分だが、レイゼロールは今はまだそこまで『終焉』を扱えないと思うぜ」
「へえ、そうなのね」
シェルディアはそう相槌を打つと、真剣な顔で空中に縛り上げられている仮死状態の竜を見つめた。
「さて、あの竜の目が覚めたら色々と聞かなければね。いったいどうやってこちら側にやって来たのか、どうしてこちら側にやって来たのか。取り敢えず、あの竜を私の『世界』内に取り込んで――」
シェルディアがそう呟いている時だった。突然、鎖に繋がれているはずの仮死状態の竜が淡く発光し、フッとその姿を消した。
「っ・・・・・・!?」
「なっ・・・・・・!?」
突然竜が消えた事実に、シェルディアと影人は驚いた顔を浮かべた。だが、零無だけは全く驚いていなかった。




