第1504話 事態急変(2)
『ふん、随分と恥知らずな竜と戦ったのだな。よほど軟弱な竜だったと見える。どんな竜かは知らんが、そいつらは竜族の面汚しだ!』
赤竜は嘲るような言葉を吐くと、口を大きく開け火球を作り始めた。火球はどんどんと大きくなり、やがて小さな太陽のような大きさになる。
「そうか・・・・・・お前はそう思うか」
影人は火球などには目もくれず、どこか嘆息したようにポツリとそう呟いた。影人はその言葉で、赤竜の事を完全に見限った。この程度の竜が自分に勝てるはずがない。
「俺からすればお前の方がよっぽど軟弱だぜ。特に精神面がな。・・・・・・お前にあいつらを侮辱する権利はねえよ。あいつらは高潔だった。お前と比べるのも烏滸がましいほどに。竜族の面汚しはてめえだろ」
気づけば影人は怒りと不快感を言葉に滲ませていた。手段を選ばずに戦った影人を認めてくれたあの2竜が軟弱であるはずがない。竜の面汚しであるはずがない。あの2人と死闘を繰り広げた影人は実感を伴ってそう言った。
『そのうるさい口を今閉じさせてやる!』
赤竜は最後にそう言うと、影人に巨大な火球を放って来た。影人は避ける事も出来たが、敢えて避けずに迎撃の行動を取った。
「出来るかよ。俺に傷1つ付けれない奴が」
影人は右手に闇色の日本刀を創造した。そして、一撃を強化する言葉を呟いた。
「闇よ、纏い切り裂け」
日本刀に闇が纏われ影人は刀を唐竹割りに振るった。闇によって強化された一撃は闇の斬撃波となり、火球を真っ二つに両断した。
『なっ・・・・・・』
その光景を見た竜は驚いたような声を漏らした。竜の反応に影人は鼻を鳴らした。
「ふん、つくづく程度が知れる反応だな」
影人は闇色の日本刀を虚空に消すと、驚き戸惑っている竜の隙をついて竜の腹部付近に移動した。
そして、
「闇よ、我が敵を砕け」
影人は右手に『破壊』の力を付与し一撃を闇で強化すると、思い切りその拳で竜の体を突き上げた。
『がっ!?』
影人の拳は全ての攻撃を通さぬ竜の鱗を破壊し、痛みと衝撃を竜へと伝えた。その痛みと衝撃に、竜の巨体が更に上空へと浮かび上がる。
「突いたり斬るなりしてもよかったが、そうするとてめえの汚ねえ血が地上に降るからな。だから、殴るだけにしてやった。ありがたく思え」
影人は浮かび上がった竜につまらなさそうにそう言うと、その身から強化の闇とは違う闇を立ち昇らせた。
「そろそろ終いにしてやる。解放――『終焉」
影人はその身から全ての命を終わらせる『終焉』の闇を解放した。それに伴い再び影人の姿が変化する。髪が伸び黒と金のオッドアイに変わり、ボロ切れのようなものが右半身を覆うように纏われる。
「・・・・・・敗者の末路だ。さあ・・・・・・死ねよ」
影人は冷め切った声で竜に『終焉』の闇を放とうとした。影人は何の迷いもなく竜を殺そうとした。
だが、
「待って影人! その竜には聞きたい事があるから殺し切らないで!」
その瞬間、シェルディアの声が影人の耳を打った。シェルディアのいる位置からいくら叫んでも、影人のいる位置までは声は聞こえないはずだが、影人にはハッキリとそう聞こえた。




