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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1502/2051

第1502話 世界激震(4)

「ったく、まさかまた変身する事になるなんてな・・・・・・ソレイユにまだ力返してなくてよかったぜ」

 影人はそう呟くと、最後にチラリと後方を見つめた。バルコニー内部にはシェルディアと零無だけ。ホテル内の廊下にも人の姿は見えない。スプリガンの正体は一部の者たちにはバレてしまったが、影人は無闇やたらに自分の正体をバラすつもりはなかった。

変身チェンジ

 影人がそう言葉を唱えると、ペンデュラムの黒い宝石が黒い輝きを放つ。すると数秒後、影人の姿が変化した。すなわち、黒衣の怪人スプリガンへと。

「嬢ちゃん、確か竜って言葉通じたよな?」

 スプリガンに変身した影人は、その金色の瞳をシェルディアに向けた。影人にそう聞かれたシェルディアはその首を縦に振る。

「ええ。竜族の幼体は意思疎通が出来ないけれど、あの竜は見たところ成体だから。ゼルザディルムやロドルレイニのように話は通じるはずよ」

「分かったありがとう。んじゃ、ちょっくら話してくる」

 シェルディアに確認を取った影人はそう言うと、夜空へと向かって飛び出した。浮遊の力を使い、空に浮かぶ。そして、影人はそのままドラゴンの元へと飛んだ。

「・・・・・・よう、対話の意思はあるかいドラゴンさんよ」

『ん?』

 竜の正面から少し離れた空間で止まった影人は、右手で軽く帽子を押さえながら赤竜にそう語りかけた。影人の言葉を理解したのか、赤竜の声が影人の頭の中に響く。そして、竜はその目を影人へと向けた。

『何だ貴様は? 魔族か? いや、魔族にしては角がない・・・・・・もしや夜の一族か?』

「・・・・・・夜の一族っていうのは吸血鬼の事か? だとするなら俺は違う。そうだな、強いて言えば・・・・・・俺は妖精だ」

 そう問うて来たドラゴンに影人はそう答えた。相変わらずの格好をつけた答えだ。普通ならばはぐらかされているか、冗談だと思う答えだ。だが、ドラゴンの反応は少し違うものだった。

『妖精だと? 我を愚弄しているのか貴様。妖精どもはもっと小さい。お前のような奴が妖精であるわけがないだろう』

「っ・・・・・・はっ、まるで妖精を知ってるみたいな言い方だな」

 ドラゴンの言葉を聞いた影人は一瞬驚いた顔を浮かべると、少し口角を上げそう言葉を述べた。

『どこまでもふざけた奴だな貴様は。もういい、それよりもここがどこなのか教えろ。空を飛んでいたら急に裂け目が現れて引き込まれた。気づけば知らぬ場所だ』

「っ・・・・・・?」

 ドラゴンは少し苛立った様子で今度はそう聞いて来た。その言葉を聞いた影人は疑問を抱いた。

(今の言葉からするに、こいつは自分の意思でここに出現したわけじゃないのか・・・・・・? それに、こいつは今裂け目がどうのって言ってたな)

 影人は内心でそんな事を考えると、その視線を右斜め上空へと向けた。

 すると、そこには夜の闇と同化して分かりにくいが、黒い裂け目のようなものが生じていた。だが、大きさはそれ程ではない。目測になるが、せいぜい縦5メートル。横2メートルといったところだ。その裂け目はいつしか影人が呑み込まれた時空の歪み、それとどこか似ていたような気がした。

(なら、こいつはあの裂け目から出てきたって事か? いや裂け目の大きさ的にこのサイズのドラゴンが出てくるのは無理だ。そもそも、こいつはいったいどこから来たんだ? ああクソ、ダメだ。情報が全く足りねえ)

 どうしてドラゴンが急に現れたのか。その謎は今すぐに解けるようなものではない。影人がそんな結論に至っていると、痺れを切らしたようにドラゴンが詰問してきた。

『おい聞いているのか? 我は答えろと言ったのだ。不敬な奴だ。答えぬというのならば殺すぞ』

「・・・・・・織田信長みてえな竜だな。鳴かぬなら殺してしまえってか。生憎と何回も死にたくねえんだ。殺されるわけにはいかねえよ」

『ふん、まるで死んだ事があるような言い方だな』

「ああ、残念ながらもう2回死んでるよ。しかも短期間の内にな」

 竜の呟きに影人は頷きそう言った。影人のその言葉は事実なのだが、普通ではあり得ないため、竜は冗談を言われたもしくはバカにされたと思い、遂に怒りを露わにした。

『ふざけるのも大概にしろ。もういい。貴様は我を愚弄した。誇り高い竜を愚弄すればどうなるか、死を以て味わわせてやろう』

 赤竜が怒りと同時にその身から凄まじい威圧感を放つ。大気が震えているのではないかと錯覚するようなその威圧感に、しかし影人は態度を崩さなかった。こんなといってはあれだが、これくらいの威圧は既に慣れている。

「はあー・・・・・・短気な奴だな。対話は出来たが結局こうなるかよ」

 赤竜に怒りを向けられた影人は軽くため息を吐いた。そして、スッとその金の瞳を細めると低い声で竜にこう言った。

るってなら別にいいぜ。ただし・・・・・・お前に殺される覚悟があるならな」

『大言を。貴様のような矮小な存在が竜に勝てると思っているのか?』

「ああ。竜とは戦った事があるからな。あの時は2匹だったが今回は1匹だ。控えめに言っても余裕だろ」

『どこまでも戯言を・・・・・・ならば、証明してみせろ。貴様の強さとやらを・・・・・・!』

「言われなくても見せてやるよ。俺の強さをな」

 影人と竜の目が交差する。空という戦場で、今まさに人と竜の戦いが始まろうとしていた。

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