第1501話 世界激震(3)
「今この辺り一帯に認識阻害の結界を展開しました。これで、人間たちはあのドラゴンには気づかない。あのドラゴンの時を止めてもよかったのですが、それでは地上に落ちてしまいますので、今回はその方法は取りませんでした」
シトュウは影人にそう説明すると、左手を虚空に向けた。すると、シトュウの左手の先に透明の門が現れた。
「緊急事態ですので私は1度真界に戻ります。あのドラゴンのように、他の場所にも異世界の生物が出現しているでしょうからね。その場所にも認識阻害の結界を張らなければなりませんし、他の事もしなければなりません。ゆえに帰城影人。すみませんが、あのドラゴンの相手はあなたに任せます。事情はその後に零無から聞いてください。では」
「は!? あ、ちょっシトュウさん・・・・・・!?」
シトュウはそう言い残すと門を潜り消えた。一方的にシトュウからそう言われた影人は驚き、シトュウを呼び止めようとしたが時は既に遅かった。
「ドラゴンの相手は任せたって・・・・・・おいおい、何がどうなって俺がそんな事を・・・・・・ああ、だけど・・・・・・やるしかねえか・・・・・・!」
シトュウが消え、残された影人は思わず頭を抱えた。だが、今は考えている余裕すらない。幸いというべきか、自分にはあのドラゴンをどうにかする力がある。仕方なく意を決した影人は、ポケットに手を突っ込みペンデュラムを取ろうとした。だが、ペンデュラムはそこにはなかった。
「あ・・・・・・そういえば、今はイヴが実体化してるからないんだった。ちっ、なら汎用性は落ちるが『終焉』の力で――」
スプリガンに成れないと察した影人は、『終焉』の力を解放しようとした。だがその時、
「影人!」
「よう生きてたかよ」
背後から影人を呼ぶ声がした。すると、そこにはシェルディアとイヴがいた。
「っ、嬢ちゃん、イヴ・・・・・・」
「地震もそうだけど、嫌な予感がしたからあなたの気配を辿って来たわ。そしてどうやら・・・・・・私の予感は当たっていたようね」
「ああ・・・・・・? ありゃドラゴンか? 何であんなもんがいるんだよ?」
シェルディアとイヴが上空に浮かぶ赤竜に気がつく。シェルディアは真剣な顔を、イヴは訳が分からないといった顔を浮かべていた。
「あれは竜族ね。向こう側からこちら側に次元を渡って来たのでしょうけど・・・・・・だけど不可解だわ。竜族の巨体が通れる次元の裂け目なんてあるはずが・・・・・・」
シェルディアは難しい顔で何か呟いていた。だが、影人にはその呟きの意味を尋ねている暇はなかった。
「イヴ、悪いがペンデュラムに戻ってくれ。シトュウさんにあのドラゴンどうにかしてくれって押し付けられちまってな。だから、取り敢えずスプリガンになる」
「はあ? だったら『終焉』使えよ。1発で死ぬだろ、あんなドラゴン」
「お前が来る前までは俺も『終焉』使おうとしてたが、それはベストじゃないんだよ。『終焉』使ったらあのドラゴン地面に落ちるだろ。それで二次災害起きたら最悪じゃねえか。『終焉』ならあいつが暴れるっていう一次災害は消せる。だが、二次災害は防げない。だけど、スプリガンならどっちも防げる。だから頼むぜ」
少しだけ面倒くさそうな顔を浮かべるイヴに、影人はそう説明した。別に影人は自分と関わりのない者たちが死のうが関係ないと思える人間だが、積極的にそうなればいいとは思っていない。防げる力があり防ぐ事の出来る状況ならば、影人はそうする。帰城影人とはそういう人間だ。まあもちろん、シトュウに頼まれたという事もあるが。
「ちっ、仕方ねえな。分かったよ、食後の運動といくか」
イヴはそう言うと、シトュウから与えられた肉体を元の自分の器であるペンデュラムに戻した。その際、闇色の光が発せられる。影人はペンデュラムに戻ったイヴを握った。




