第1500話 世界激震(2)
「はははははははははははははははっ! はははははははははははははははははははははっ!」
同時刻。日本、京都。人気のない林に男の哄笑が響いた。その男は興奮したように、面白そうに、或いは狂ったように笑っていた。
「やった! 遂にやりましたよ! 世界の境界が崩れた! 今までの間隙を縫うような区切りではない! しっかりとガラスの一部が割れたように境界にヒビが入った!」
男は狂気を孕んだ目で夜空を見上げた。今の地震は世界と世界を隔てる境界にヒビが入った合図のようなものだ。その証拠に、夜空の一部分には夜の闇よりもなお黒い漆黒の亀裂のようなものが入っていた。今にもあの亀裂から出てくるはずだ。向こう側の住人が。すなわち、【あちら側の者】が。
「さあさあさあ! 楽しくなって来ましたよ! これから混沌が訪れる! 破滅の混沌が! 私が望むものが! ひひっ、ははっ、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
抱腹絶倒。男の様子を表すのならその言葉が適切だった。ただし、その笑いの原因は常人には決して理解できないものだろうが。
「ゲームの幕は上がりました! 願わくば、今度こそ滅びてくださいよ! この世界!」
男は両腕を上げその薄い灰色の瞳で夜空を見上げると、そう言葉を放った。
「っ・・・・くそどうなってんだよ! 何でドラゴンが・・・・・・!」
2度目のドラゴンの咆哮によって、ようやくその意識をハッキリとさせた影人は、夜空に羽ばたいているドラゴンを見上げながら、焦りと不可解さが混ざり合ったような声でそう言葉を漏らした。
「落ち着け影人。お前からすれば、あの竜はそれ程脅威にはならないはずだ」
そんな影人とは対照的に、零無はいつも通りの声で影人にそう言ってきた。
「別に混乱はしてねえよ! ただ意味が分からないって思っただけだ!」
「それは同義でないのかい?」
「っ・・・・・・う、うるせえよ!」
首を傾げそう言った零無に影人はついそう叫んだ。完全に零無の指摘が図星だったからである。
「グルル・・・・・・」
赤竜は影人に気づいていないのか、はたまた気にしていないのか周囲や地上を見渡していた。赤竜の様子を観察していた影人は、最大限に赤竜を警戒しながらこう言葉を漏らした。
「一応、すぐに襲ってくる気配はないか・・・・・・? だが、あのドラゴンがこのまま何もしないってのは流石にないよな・・・・・・となると、あいつが何かする前に・・・・・・」
「――対策を講じる、ですか」
影人の言葉を先取るように後ろから女の声が響いた。影人が振り返るとそこにはシトュウがいた。
「っ、シトュウさん・・・・・・」
「その認識は正しいです。あの生物をあのままにしておけば、この世界の者たちは混乱するでしょう。ゆえに・・・・・・」
シトュウはそう言うと、スッと右手を夜空に向けた。すると、透明の波動が世界に放たれた。




