第150話 内なるモノ(2)
(何だ? 何かが引っかかる。こいつは何でそんな話を俺にする? でかいダメージを負ったなら、前みたいにさっさと撤退すりゃあ・・・・・・)
そうだ。なぜフェリートは撤退しない。もしかして力が使えないなどといった理由か。先ほどのフェリートの圧倒的な力を考えれば、もしかしたらという事もあるかもしれない。
だが、影人にはそうは思えなかった。フェリート程の人物が最低限の余力を残していないとは考えられない。
「ああ・・・・・その顔。くくっ、やはり、あなたは、侮れ、ません、ね」
ただ薄弱に笑う闇人に、影人は今までにない危機感を感じた。速く、速くこの場を離れろと影人の危険信号が点滅している。
「私は・・・・・・・1つ、嘘を言いました。・・・・・・・私は、まだあなたには負けていない・・・・・・・」
「どういう意味だ・・・・・・!」
この状況を第三者が見ても、勝者は影人と言うだろう。フェリートは倒れていて、影人はまだ立っている。それは明確な差だ。
だと言うのに、フェリートが嘘を言っているようには影人は思えなかった。
「・・・・・・・よく、考えてみる、ことです、ね。あなた、がいま立っている、その場所を・・・・・・・・」
「場所・・・・・・?」
影人がいま立っているのは、ただのアスファルトの道路だ。フェリートが倒れている場所からは、ほんの少しだけ離れている。位置で言えば、ちょうど提督と向かい合っていた時の中間地点。
(まて、中間地点? ここに何かなかったか? そう、提督と見合ってるとき、フェリートが現れた時・・・・・・・・)
確か1本のナイフが地面に刺さって――
「ッ!? まさか――!?」
影人は自分の足下を見た。そこにはフェリートが1番始めに投げた、闇色のナイフが1本、地面に突き刺さっていた。
「もう、遅い・・・・・・!」
フェリートが右手を掴むような仕草をする。それを契機に、闇色のナイフはその姿を変えた。
ナイフは突起物に姿を変えると、そのまま影人の心臓を貫いた。
「執事の技能・・・・・・・・罠!」
「がっ・・・・・・・・・」
ダメなところが壊れた。本能的に影人はそのことを悟った。
(・・・・・・・ああ、ここで仕舞いか)
負けた。自分の死という形をもって、自分は負けた。最後まで勝機を諦めなかった、最初から罠を仕掛けていた、フェリートのリベンジは確かに成功した。
影人は意識が闇に沈む中、最後にそう思った。存外、あっけない最後だった。
『――おいおい、そいつは困る。困るぜ。お前に死なれちゃ、俺が困るんだよ』
だが、影人はどこからか嘲るような女の声を聞いた。




